【本間卓哉】テレワークのシステムを最適化する方法とは?テレワークを阻む崖を越えろ!
働き方改革推進に加えて新型コロナウイルスの感染の拡大で、企業の働き方は大きく様変わりしています。従業員に最適なテレワーク環境を提供できるかどうかが、企業の命運を分けるとも言える時代です。
このコラムでは「テレワーク最適化マップ」と題して、最適なテレワークというゴールに到達するためのガイド役が果たせればと考えます。
テレワークを阻む崖
テレワークが最適に進む企業、進まない企業を分ける違いは何でしょうか?
そこには「テレワークを阻む崖」が存在します。
テレワーク推進の実務にあたる情報システム、総務の皆様のなかには、以下のような様々な課題に日々直面し、悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか?
紙文化の崖
まず一つ目は、ペーパーレス化が進まない「紙文化の崖」です。
経費精算、勤怠管理、稟議などの申請書類をいまだに紙でやり取りしている企業は少なくありません。なぜ、多くの企業は申請書類を電子化できないのでしょうか?
紙文化の時代を生きてきた管理職の人々の多くは、デジタルよりもアナログを信用しています。いまだに紙への「安心感」から脱却できていないのです。また、多くの部署や役職に「書類をチェックすることが仕事」という考え方も根付いていることも要因です。
こうしたチェック業務はデジタルに任せて、自社のコア業務に注力するのが本来あるべき姿と言えるのではないでしょうか?
IT投資の崖
「目に見える投資」は積極的にするものの、「目に見えない投資」は消極的という企業があります。例えば、サーバーなどの目に見える機材には高額な投資をするが、数千円のクラウドツールの導入には抵抗を示すという経営者に出会うことがあります。
こうした企業では、IT人材がコストセンターと捉えられています。IT人材が増やせず「ひとり情シス」の状態に陥っています。このようなIT投資への旧態依然の考え方はテレワーク最適化においても大きな課題となります。
レガシーシステムの崖
企業の基幹システムは、いわゆる「2025年の崖」問題に直面しています。古くから利用していたレガシーシステムの老朽化が進んでいます。使用されているプログラム言語は古く、特定の管理者でなければ運用できません。しかし、2025年を境に扱える技術者は退職していくのです。
ほとんどがパッケージでなくスクラッチで構築されている基幹システムの改修には多くの労力とコストが必要で、身動きが取れない状況となっています。日本企業が抱える大きな課題とも言えるのです。
バブル崩壊、増税、リーマンショック、アベノミクスなど、この30年で日本の事業環境は目まぐるしく変化しています。当然事業環境が変われば、業務の変革も求められます。時代が変わり、ビジネスモデルも変わっているのに、基幹システムの改修が進まないことで、現場の業務は旧態依然という企業があります。こうした企業は、テレワークの推進も遅れてしまうでしょう。
リモート環境整備の崖
以前から在宅勤務を促進し環境を整備していた企業は、現在も滞りなく業務が進められているのではないでしょうか。
一方で、コロナ禍で慌ててテレワークに移行した企業はどうでしょう。モバイル端末の支給が不十分、データのアクセス権限が未整備、リモートでのセキュアなネットワーク環境が準備不足。こうした状況は、従業員がテレワークに従事するうえで大きなストレスを招くことになります。
「結局出社しないと業務が進まない」といった事態を招いてしまうのです。
コミュニケーションの崖
コロナ禍は1年以上続いています。テレワークを続けている従業員が長らく同僚や上司に会っていないということが起こっています。こうしたなかコミュニケーションはもっぱら、メールやチャット、Web会議ツールなどに限られています。
Aさんと「Web会議で決めた内容」をBさんにチャットで伝えるようなシチュエーションで、Web会議の全容をチャットで伝えるのは困難です。そこでBさんにプロジェクトの大切な部分を伝え損ねてしまうようなことが起こります。こうしたテレワーク環境特有のコミュニケーション不足から、従業員間に情報格差を生じさせることがあります。
崖に落ちた企業の行きつく先は?
これまでに上げた「テレワークを阻む崖」に落ちた企業の行きつく先はどこでしょうか?
新型コロナウイルス感染防止策として自宅勤務に切り替えたものの、従業員が「勤務」ではなく「待機」となっているケースがしばしば見受けられます。
つまり行きつく先は、体裁だけの “なんちゃってテレワーク” なのです。
本来、テレワークというのは自宅でも社内と同様の労働環境を可能にすることです。ところが、管理者と従業員のコミュニケーション不足やセキュリティのなどの環境不備は、従業員を業務が遂行できない状態に陥れてしまうのです。
「従業員軸」のテレワーク最適化
“なんちゃってテレワーク”に陥らずにテレワークを最適に進めるにはどうしたら良いのか?
その答えは従業員の目線での環境整備です。「従業員軸」でテレワークの最適化に当たることです。「自宅の通信環境は問題ないか」、「利用するデバイスはセキュアか」、「管理システムは適切か」。これらの視点から従業員が納得できる勤務体制を整えましょう。
まずは書面の業務を洗い出す
テレワークシステムを進める上で鍵となるのは、やはり「ペーパーレス化」です。
まずは、現在書面で行っている業務で非効率を生んでいるものをとことん洗い出しましょう。そしてその業務が電子化できるようであればシステムを導入していきます。
従業員軸で業務のテレワーク化を進める
人事、労務、経理など部門ごとにシステムがバラバラで連携していないということがよくあります。こうした業務を「従業員を軸」として捉えなおし、最終的に会計に流れるデータの視点でシームレスに繋がるようシステムを見直す進め方。これが私が著書「バックオフィス最適化マップ」で提唱したアプローチです。
これと同様のアプローチをテレワークの観点で見てみましょう。
テレワークの普及で、従業員の業務環境は変化しています。例えば採用の業務では、オンライン面接が普通になってきているので、面接官が自宅でも面接できるようにセキュアな環境をつくるべきです。
そして従業員の採用後には労務関連の業務が待っています。様々な役所への申請業務が発生します。この手続きを電子化することで、労務に関わる業務がテレワーク化されます。
勤怠管理もこれまでのタイムカードやエクセルの管理のような改ざんが容易な仕組みでなく、第三者の認証に耐えうる勤怠システムが求められます。さらにテレワークの環境下でも従業員が勤務の開始と終了のタイミングで打刻できるシステムでなければいけません。
また、給与計算業務においても給与明細を紙で渡している企業もまだ多く見られます。給与明細の電子化もテレワーク最適化のためのプロセスの一つです。
このように、「従業員を軸」にした一連の業務をテレワーク化の観点で見直すと、どんなシステム構築が必要か可視化できるでしょう。
コミュニケーンがルール化されているか?
業務のテレワーク化を進めると従業員のコミュニケーション不足による情報格差が生まれてきます。
これを解消するにはコミュニケーションの「ルール化」が重要です。例えば「Web会議の際は必ず録画し、データをチャットで共有する」、「週に1度スプレッドシートに進捗を記入し、メンバー全員がチェックする」などのルールが有効です。
無料ツールにはリスクがある
次に業務アプリを選択する際に注意すべき点があります。昨今、無料の業務アプリが数多くリリースされており、導入のハードルは下がっています。
ところが、この無料ツールには思わぬ“リスク”があることを心して臨むべきです。自社にリスク管理の体制が整っていなければ、情報漏えいなどのセキュリティリスクを招いてしまう恐れがあります。
セキュリティと利便性のバランス
システム導入後に考えなければならないのは、外部からのアクセス環境です。シングルサインオンを通じてログイン管理可能な環境に整えるなど、利便性とセキュリティのバランスを考慮しながら進めるべきです。
ネットワークの安定性
ネットワークについては安定性を重要視すべきです。特にWeb会議が主流となりつつある現在のビジネス環境で「途中で回線が切れてしまう」「時間帯によって繋がりにくい」といった事象は避けたいところです。
テレワークのネットワーク環境で推奨されるのはダブル回線。マンションの既存回線とともに、Wi-Fiやテザリングといったサブネットワークを用意しておくと安心です。
ゼロトラストのセキュリティ対策
テレワークの普及に比例してサイバー攻撃も増加しています。会社以外の外部環境で働く機会は益々増え、そもそも、ウイルス対策ソフトをインストールしたからといって、PCが保護されるという時代ではなくなっています。
ウイルスは侵入するものという前提でセキュリティ対策を進めるべきです。つまり“ゼロトラスト”での対策が求められているのです。侵入後のインシデントの対策が練られているかどうかが大事です。
EDRソリューションなどを活用し、遠隔で検知から指示までを可能とするシステムを構築することも必要です。
最適なリモートアクセスの構築
テレワークのためのネットワークを構築するには、VPN、VDI、リモートデスクトップなど最適なリモートアクセス製品の導入が必要です
紙で行っていた業務をクラウド化していったあとに、どうしてもクラウド化できないオンプレミスの基幹システムが残ります。
テレワークを進めるときにVPN接続でセキュアな通信網を構築します。そうすると社内と同じネットワーク環境で、基幹システムを使った販売管理などの業務が可能となります。
一方でVPNによる接続は、多くのアクセスが集中してしまうとネットワークが不安定になります。また、会社から貸与されているPCでのアクセスなら良いのですが、自宅のPCからアクセスするとなると情報漏洩リスクは高まります。
最近は低遅延でセキュリティの高いリモートデスクトップ製品が登場してきています。リモートデスクトップは、自宅のPCやタブレットから会社内にあるPCを遠隔操作できる仕組みです。
自宅のPCやタブレットにデータを残さない仕組みなので、セキュリティが保たれます。短期間に低コストでセキュリティの高いネットワーク環境を構築したい場合には最適な選択です。
まとめるとリモートアクセス製品の選択には、二つのアプローチがあると思います。
一つ目は。会社から貸与されたPCを持ち歩いてVPNなどでアクセスする方法。
二つ目は、PCは持ち歩かずにあらゆる端末から会社のPCにアクセスするというアプローチ。この場合リモートデスクトップが有効でしょう。
リモートアクセス製品も従業員にとって「扱いやすいUIであるか」、「ストレスのない速度を保っているか」、「セキュリティは問題ないか」などが選択のポイントとなります。
テレワーク最適化マップ
最適なテレワークをスタートさせる上で、まず考えなければならないのは「目的」です。何のためにテレワークを導入するのか明確にしましょう。
そして書面で対応していた業務をどこまでデジタルにシフトできるかを検討し、効率化が可能であれば進めていきます。
同時にテレワークを実践する従業員の目線で環境を整えることが大切です。
テレワークをスタートさせたら、安定したネットワークやセキュアな環境が保てるよう、各ソリューションやルール化を駆使して運用していくこと。
このように「従業員軸」で全体マップを描きながら、業務を効率化していくことが、テレワーク最適化の近道と言えるでしょう。
著者プロフィール:本間卓哉
一般社団法人 IT顧問化協会 代表理事、株式会社IT経営ワークス 代表取締役など
大学卒業後、大手IT関連企業に入社し、2008年CHATWORK株式会社に転職。企画マーケティング部を発足し、あらゆるWEBプロモーションを駆使して、売上げアップに務める。2010年に独立し、IT経営ワークスを創業。2015年にIT顧問化協会(ECIO)を発足し、IT活用・デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を望む全国の企業からの相談を受け、中立的な立場で的確な支援ができる体制を構築している。著書に『全社員生産性10倍計画』『売上が上がるバックオフィス最適化マップ』(ともにクロスメディア・パブリッシング)など