2022.3.28

ひとり情シスの実態とは?テレワークの課題や実践ノウハウ【セミナー詳細レポート】

StoryNews編集部


テレワークの普及やDXの取り組みの活性化により、情報システム部門が担う領域が広がっているにもかかわらず、ひとり情シスの課題が解決されないまま負荷が集中しています。2022年2月10日に、スプラッシュトップ株式会社は一般社団法人ひとり情シス協会と共催でセミナー『ひとり情シスとテレワークの壁』を開催しました。緊急事態宣言という誰にも予測できなかった事態にひとり情シスの達人がどのように切り抜けたのか、熱のこもった意見交換が行われました。  

当日のセミナーのアーカイブ動画(全編版)はコチラからお申込みでご覧頂けます。(公開期日:2023年2月9日迄)

ひとり情シスの実態とは  

最初に登壇したひとり情シス協会の清水博氏は、ひとり情シスの実態がどうなっているのか、そしてテレワークを推進していくにはどのようなことが課題となるのか、調査結果を踏まえて解説しました。  

1.ひとり情シスからの増員意欲はあるが人材不足が壁に

ひとり情シスとは、企業のITシステムをひとりの担当者で管理する状態のことです。従業員数が増えるとガバナンスが難しくなるため、一般的に従業員数が30名を超えると兼任で、50名を超えると専任でIT担当者が配置されます。  

コロナ禍の影響でリモートワークやIT資産管理の仕事が増えており、ゼロ情シスの企業でもIT担当者を配置する傾向があります。また担当者がひとりではリスクが高いため、もう1人増員する傾向もあります。事実、ひとり情シス企業では58%、ゼロ情シス企業では27%が増員を検討しています。

併せて読みたい、ひとり情シスの人員に関する調査】  

現在ゼロ情シス企業は14万社、ひとり情シスの企業は4万社あり、全ての企業が1人増員すると22万人のリソースが必要となる計算になります。そのため需要とのギャップが生じており「増員意欲はあっても7割の企業が採用に苦労している」と清水氏は解説します。  

2.ジュニア情シスやパートナー活用が進む

その結果として増えているのが経験年数3年未満の「ジュニア情シス」です。他の部署の担当者がシフトして担当になるケースと、ITの経験があるが情シスの経験がない人が担当になるケースがあります。「ITの経験者が情報システム部門に流入するのは喜ばしいものの、企業文化が合わないといったミスマッチもあります」(清水氏)。  

人手不足を回避する対策としてパートナー企業の活用も進んでいます。しかし調査によると、パートナーに依頼したい項目としてクライアント管理やヘルプデスクといったアウトソースしやすい領域よりも、プロジェクト管理、BCP構築といった高度な内容への期待が多く「コストが合わない、適したパートナーが見つからないという問題が発生しています」(黒田氏)。  

3.ひとり情シス企業でテレワーク進まず

ひとり情シス協会とスプラッシュトップで行った「ひとり情シス・テレワーク実態調査」によると、中堅企業でテレワークを実施しているのが25.4%なのに対し、ひとり情シスでは19.8%にとどまっており、ひとり情シスの会社はテレワークができていないという課題が浮き彫りになりました。テレワークを実施できない理由として「セキュリティ不安(67%)」や「ネットワーク環境整備(56%)」が上位に挙がりましたが、「PC・周辺機器の調達(45%)が予想外に多かった」と清水氏は語ります。  

4.テレワーク3つの壁

今回テレワークの日数別の満足度を調査したところ、週1日テレワークをしている人で満足していると回答した割合は63.1%となり、週2日(56.7%)、週3日(53.6%)、週4日(49.1%)と日数が増えるにつれて満足度が下がりますが、週5日になると58.9%と満足度が再び高くなるということがわかりました。  

この結果から、テレワークの日数を増やすには3つの壁があると清水氏は解説します。第1の壁は、テレワークを実施していない企業が週1~2日のテレワークを導入するまでです。セキュリティやネットワークといった基盤やガバナンスの問題、非対面コミュニケーション方法の確立といった問題もありますが、「仕事の性質上、会社に来なければいけない人への気遣いができていない会社が多い」と清水氏は語ります。  

そして第2の壁はテレワークの頻度を増やす際に発生する満足度の低下です。これは「社内のシステムすべてがリモート環境で使えるわけではないことが原因」と清水氏は指摘します。  

さらに第3の壁は、勤務体系や評価制度という問題です。週5日テレワークするには、仕事の責任範囲が明確でひとりで完結する仕事が多く、その評価も正当にされている場合に限られると清水氏は指摘します。簡単には実現できない問題ですが、清水氏は最終形を目指した取り組みが必要だと考えています。「テレワーク導入によって会社の強さ弱さが見えてきたのではないでしょうか。テレワークを導入するということは経営品質を高めることもつながります」と清水氏は締めくくりました。 

伝説のひとり情シスが語る「ひとり情シスのテレワーク実践法」

次に伝説のひとり情シスとして知られる黒田光洋氏が登壇しました。実際にテレワークをどのように導入していったのかを解説する実践的な内容となりました。  

1.古いPCをテレワーク用に

テレワークで最初に問題となるのが、清水氏の調査結果でも触れられていた「PC・周辺機器の調達」です。黒田氏の会社でも持ち帰り用のPCを用意する必要がありましたが、予算がありません。そこで目を付けたのがWindows7のサポート終了に伴い返却されたPCでした。幸いWindows10をWindows7にダウングレードしていたため、OSのライセンス調達は必要ありませんでしたが、PCのメモリが4Gしかなく、Windwos10の起動が相当遅く業務に使えるレベルではありませんでした。そこでハードディスクをSSDに入れ変えてみたところ、動作速度が改善しました。  

2.クラウドを活用し紙をデジタル化へ 

次に取り掛かったのが紙のデジタル化です。黒田氏は紙の資料をカメラで撮り、画像をファイルサーバーに格納していきました。クラウドストレージはAI画像処理が進化しており、画像の中から文字や数字を抜き出すことができるようになっているため「ストレージの中に格納するだけでもデータの価値は高まる」と黒田氏は語ります。   

また黒田氏の会社でも押印業務のために出社しなければならないという問題がありました。そこで電子印ソフトやワークフローシステムを活用しつつ、一部プログラムを内製で作成して対応しました。  

コロナ禍を機に、黒田氏の会社ではコミュニケーションツールとしてTeams、Outlook、ストレージサービスとしてOneDrive、SharePointの活用が進みました。以前よりもクラウドサービスが手軽に導入できるようになっているため、積極的に活用するべきだと黒田氏は語ります。「オンプレミスのファイルサーバーの重要なデータだけクラウドにバックアップするといったちょい足しの活用も有効だと思います」(黒田氏)。  

3.テレワーク環境として既存環境の拡張やクラウドサービス、リモートデスクトップ活用

テレワークでは、社外から社内ネットワークにアクセスできる環境が必要です。黒田氏はもともと出張者用として使用していたVPN回線を利用しました。しかし全社員がアクセスする想定になっていなかったため、ネットワークが輻輳することが頻発するという問題が発生しました。そこで回線設備を増強するのと並行して、時間帯を区切って順番制で使用する、システムをクラウドサービスに切り替える、大きなデータを扱う業務をする場合は社内のパソコンを遠隔操作するリモートデスクトップを利用する、といった対策で窮地を乗り越えることができました。  

4.ルールに従わないリスクを理解してもらう

社外にデータを持ち出すことで懸念されるのがセキュリティリスクです。黒田氏の会社では、コロナ禍を機にウイルスソフトからエンドポイントセキュリティに切り替えたほか、操作ログやPC稼働時間の収集ツールも導入しました。こうした対策は「利用者への啓蒙活動の意味合いが強い」と黒田氏は語ります。「一番のリスクはヒューマンエラーです。そのためあえて監視されているということ伝え、ルールに従わない行動はリスクがあると理解してもらうことも重要です」(黒田氏)。  

5.情シスこそテレワークを!

「テレワークが進むと結果的にデジタル化も進む」と語る黒田氏は、まずは週1日のテレワークから始めることを推奨しています。黒田氏自身も週に5日のテレワークを実現しています。「ひとり情シスがテレワークをするには、自分のデスクから離れて仕事をできる環境を整備する必要がある」と黒田氏は語ります。これまで黒田氏はデスクトップ3台、モニター2台、作業机を2個で仕事をしていましたが、ノートPC1台で仕事ができるように環境を変えていきました。  

黒田氏の自宅では押し入れを改造して書斎を作ったり、立って仕事ができるように本棚の一部をワークスペースにしたりと、工夫して仕事をできる環境を整備しています。またテレワークで黒田氏が検証しているのが「444の働き方」です。これは朝と夜それぞれ4時間働き、昼間に4時間休憩を確保してプライベートに使う働き方です。スーパーフレックス制のため就業時間についても問題がなく、周囲からも朝や夜に情シスに連絡できるのは便利と好評だそうです。現在はワーケーションも実証している黒田氏。「テレワークは将来の働き方の多様性につながります。将来のためであればデメリットを課題と捉え、解決していこうという思考に変わります。この機会にぜひ理想のワークライフバランスを実現してください」という言葉で締めくくりました。

ひとり情シスの達人が集結!「実録!テレワークにひとり情シスがどう動いたか?」

ここでは清水氏がモデレータを務め、ひとり情シス歴17年の増山 大輔氏、ひとり情シス歴8年の林田 悠基氏がテレワーク導入の実体験を語りました。その後、黒田氏が加わりパネルディスカッションが行われました。  

1.仕事の指示・報告の見直しやエッセンシャルワーカーへのケアが必要(増山氏)

 増山氏は、製造業の企業において情シスを担当しています。工場で働く従業員は生産設備を扱うことからテレワークができず、それ以外の従業員4名を対象としてテレワークを導入しました。これまでも使用してきたDesktop VPNと、従業員の自宅にあるPCを使ってテレワーク環境を構築しました。翌日には4名全員から自宅で問題なく業務ができるという返答があり、その日からテレワークの運用を開始することができました。  

しかし、テレワーク実施者とテレワークができない人との間にギャップが生じるようになります。テレワーク実施者の満足度は高かったものの、実施者以外の人からは「何をやっているのかわからない」という意見が寄せられました。そこでテレワーク実施者に毎日レポートを提出するルールを作ったのですが、今度はレポートの提出が大変になり、出社を希望する人も増えてしまう結果になりました。こうした経緯から2021年10月に緊急事態宣言が終了して以降はテレワークを実施していないそうです。  

「テレワークができない従業員をどうケアするかが課題」と増山氏は語ります。仕事の指示・報告も具体的に行うべきだったという反省点がありました。「うまくいかなかったこともありましたが、いろいろ考えるきっかけになりました」という増山氏の言葉は、まさにテレワークの導入によって経営課題が浮き彫りとなることを裏付けるものでした。 

2.足りない部分は成長の芽。攻めのテレワーク環境にするには(林田氏)

林田氏は、ソフトウェア開発業務と情シスを兼任しています。林田氏の会社では約30日の準備期間を経てテレワークへ移行しました。前半の2週間でルールを検討し、後半の2週間で業務ができる環境を整備し周知を行いました。「テレワークに移行できたのは、トップダウンで進めたことが大きい」と林田氏は語ります。またコロナ禍以前から開発業務にクラウドサービスを使用しており、PC端末管理もできていたのも大きな要因でした。  

とはいえ課題もありました。1つ目の課題が対面でのコミュニケーション文化です。林田氏は対面にこだわる文化を変えるため、テレワークの際に使用するツールの使い方やノウハウについて勉強会を開催し、積極的に展開していきました。  

2つ目の課題は紙書類の処理です。ワークフローを導入する予算がなかったため、林田氏が考えたのはチャットツールの活用でした。チャットツールを使った簡易的な承認フローを作り、紙へのサインは後日実施するというルールを作りました。  

3つ目の課題が在宅環境です。家族がいて集中できない、回線の問題で業務に支障があるといった問題があります。林田氏は「回線の問題に関しては、会社からモバイル回線を貸し出すことで乗り切りましたが、在宅での業務環境整備という点において、完全な解決にはいたっていません」と語るように、ライフステージや住宅環境によって在宅勤務が困難になるという現実がありました。  

「とはいえ足りない部分は成長の芽とも言えます」と林田氏は前向きに捉えています。「引き続き攻めのテレワーク環境の整備に取り組みます」と決意を新たにしていました。  

3.緊急事態に対応するために普段からひとり情シスがやっておくべきこととは?

ここからはパネルディスカッションです。「テレワーク導入では課題もあったものの、情シスの方は全体がよく見えているからこそ緊急事態でも対応できたのでは?」という清水氏の問いかけに対して「困りごとに対して普段から全力で対応していると、私が困っている時に周囲が助けてくれる。こうした関係を日ごろから築くことが大切」(黒田氏)「普段からフランクに話せる関係をつくっていくことを意識している」(増山氏)という意見があり、周囲との関係性が緊急時にも生かされることが伺えました。  

4.これからのマネジメントはどうあるべき?

テレワークではマネジメントの方法も大きく変わりました。「テレワークにおける自己完結型を見据えたマネジメントはどうあるべきか?」という清水氏の問いかけに対し、マネジメント業務を担う林田氏は「部下が何をしているのかわからないという現実はあるが、管理のし過ぎよくない。業務の進捗確認は週1回程度にとどめ、リモートでも仕事ができると自信をつけてもらうようサポートするべき」とアドバイスします。黒田氏は「ジョブスクリプションがないため様々な領域の仕事が際限なく降りかかる。目標として設定した仕事を優先できず、適正な評価がされているか疑問」と現状を明かすと、増山氏も「パフォーマンスを評価する方法を模索する必要がある」と現状の評価制度の問題を指摘しました。  

その後のQ&Aも参加者から数多くの質問が寄せられ、登壇者がひとつひとつ丁寧に答えていたのが印象的でした。大盛況のうちに幕を閉じた今回のセミナーでは、ひとり情シスが数々の制約がある中で、どのように変化の波を乗り越えていったのかがよくわかりました。改めて情シスの役割の大きさを感じた一日でした。  

当日のセミナーのアーカイブ動画(全編版)はコチラからお申込みでご覧頂けます。(公開期日:2023年2月9日迄)

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