2024.3.29

【ネオジェン】食品安全の未来を創る、デジタルの活用と行動様式の醸成

StoryNews編集部


”世界の安全・安心な食糧供給に貢献する”ことを企業ビジョンとし、食品衛生における微生物検査製品、DNA検査を提供するアニマルセーフティ製品、ゲノミクス(遺伝子)関連製品などを展開するネオジェン社は、横浜みなとみらいのネオジェンジャパン本社にて、「食品安全文化とデジタルトランスフォーメーション(DX)」をテーマにセミナーを実施した。

ゲストに招いたのは、FDA(米国食品医薬品局)や世界的な企業で食品安全について中核的な役割を担うフランク・イアナス氏。ネオジェン社の最高科学責任者であるロブ・ドノフリオ氏とともに、世界の食品安全の最新トレンドについて語った。

ネオジェン社は、1982年に米ミシガン州ランシングにて事業を開始して以来、「食品安全」と「動物安全」を軸に、製品・サービスの開発、製造、マーケティング等、幅広く事業を展開している。現在では世界12か国にカスタマーサポートラボ、140か国以上に販売拠点を有する。日本でもネオジェンジャパン社が2022年9月に設立されている。

セミナーの冒頭に登壇した最高科学責任者のロブ氏は「ネオジェンは検査用デバイスを開発するだけの会社ではなく、お客様に力を与え、教育し、食品安全をともに見守っていく会社。各分野の専門家が揃っているので、お客様独自の課題やニーズについて理解したうえで、それぞれに合わせたソリューションを提供していきたい」と語った。

なくならない食品事故、デジタルの活用で解決策を探る

本会のメインは、フランク氏による「食品安全文化とデジタルトランスフォーメーション(DX)」をテーマとした講演だ。ロブ氏に続いて登壇したフランク氏は、「まず皆さんに申し上げたいのは、『新しい食品安全の時代がやってきた』ということだ」と切り出した。

世界の変革のスピードは常に加速しており、それは食品安全についても同様である。人類の食と安全の歴史は、紀元前の狩猟採集時代から始まり、農耕、加工、流通と著しく進化している。現代においても、アメリカのグローサリーで扱う平均的なSKU(品目数)は、1970年代は1.5万ほど、2000年代には約5万SKUを超え、現在はITの発達により“棚に終わりがない”といわれている。必要なものはすべてオンラインで、リアルタイムに世界のどこからでも注文できるようになり、その総数は把握しきれないほど膨大ということだ。

食文化が広がり、現代的かつ国際的になった人間の食生活。一方で、食中毒や異物混入など、食品安全に関するリスクにも幾度もさらされてきた。ごく最近の例としても、2023年11~12月に、アメリカやカナダでサルモネラ菌を原因とする、メロンの大規模な集団食中毒が発生し、死者も出ている。また、アメリカではそれとほぼ同時期に「子ども用アップルソースに鉛が含まれている」として当該商品を回収、40人以上の子どもが鉛中毒になる事例も発生している。「供給が進むにつれ、現在もこのような感染事例がある。私たちは、テクノロジーによって感染件数や病原菌をきちんと検知し、より安全な供給ができるよう改善していかなければいけない」(フランク氏)

フランク氏のいう、テクノロジーの活用が食品安全に活かされている例もある。デンマークで大規模な食中毒が発生した際、感染者のクレジットカードの利用履歴から、特定のブランドのソーセージを購入していることがわかり、感染源を突き止めることができた。また、カナダでメープルリーフを原因とする集団食中毒が起こった際、感染爆発の経緯を分析した論文が医学雑誌に掲載され、Google等で検索をすれば閲覧することが可能になった。ITの普及により、公共の衛生研究所の報告だけではなく、実際のアウトブレイク事例という社会的なデータを容易に得ることができるになったという。こうした過去のデータから学ぶことも、未来の食品安全につながるというわけだ。

フードトレーサビリティにおける現代的アプローチの重要性

「現代を生きている我々は、食品安全に関してもより現代に合ったアプローチが必要」というのが、フランク氏の基本的な考えだ。これまで紙ベースだった大量の情報をデジタル化し、AI等の新しい技術を活用することによって、今まで分断されていた情報を引き合わせ、安全予測に活かすことができる。「決して技術を追い求めているわけではなく、固定電話がスマートフォンになり、紙の地図が音声案内付きのナビに進化していったように、公衆衛生の問題を解決するなら、食品安全の分野でもテクノロジーを活用するべきだと考えている」(フランク氏)

特にフランク氏が、技術の活用で課題解決に向けて注力してきたのが、食料のトレーサビリティだ。産地はどこで、加工はどこで行われて、最終的にどうやって売り場に届いているのか、これが明確でないことへの危機感を抱いていたという。たとえば、アメリカではたびたびピーナッツバターを原因とする大規模な食中毒が発生しているが、2008年~2009年にかけて発生したサルモネラ菌を原因とする、ピーナッツバターによる集団食中毒は、対象範囲を調査していくと、クラッカー、アイスクリーム、キャンディ、ペットフードにまで、このピーナッツペーストが使われていることがわかり、最終的にリコールの対象は3,900SKUにも上った。「それらすべての商品を突き止めて回収するのに、3カ月という長い時間がかかった。これはトレーサビリティの欠如が大きな要因といえる」(フランク氏)

トレーサビリティの改善に向けて、フランク氏は市販のカットマンゴーを使って実験を行った。研究チームに指示をして、マンゴーの産地を従来のアナログな方法で調査したところ、生産者を割り出すまでに6日間18時間26分かかった。次に、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用し、非常にシンプルなデジタルツールを開発。このデジタルツールで追跡を行ったところ、データをスキャンしてからわずか2.2秒で生産者を特定することができた。「店頭に並ぶ商品が、どこで作られてどのように運ばれてきたのか、情報にすぐアクセスすることができる。スマートに食品の安全を確保する技術がフードトレーサビリティだ」(フランク氏) 

行動様式を変え、文化を作る。「食品安全文化」とは

技術の活用が重要だとする一方、食品安全は技術だけで終わる話ではなく、仕事のやり方や人としての振る舞いもスマートにする必要がある。それが、フランク氏が提唱している「食品安全文化」の考え方だ。食の安全とは病原菌の問題だけではなく、行動様式の問題でもあるのだ。生の肉を切った包丁とまな板で、そのまま生野菜をカットする、この食中毒のリスクを高める一連の行動様式が身についているのだとしたら、変えていかなければいけない。そのためには、企業や組織がまず食品安全に関するプランを立て、実行、検証し、チーム内で食品安全に対する文化を作っていくことが大切だという。

このときに重要なのは、プロセスのシンプル化を図り、ツールを活用して、ハードルを下げることだ。難しく複雑なことは誰もやろうとしないが、簡単にできることなら文化として次第に定着していく。デジタルや技術、そして人と人とのコミュニケーションを活用することで、行動様式は変えられるというわけだ。

今までにないスピードで世界が変革していく中で、我々は今まで以上に食料供給について考えていく必要がある。その際に必要なのは「Hi-Tech(テクノロジー)」と「Hi-Touch(人と人とのかかわり)」、どちらも欠かすことはできない。「それができれば、私は食品安全の未来は明るいと思っている。よりスマートでより安全、サステナブルな食品システムをこれからも作っていけるだろう」と、フランク氏は締めくくった。

普段、私たちが当たり前のように楽しんでいる食事は、フランク氏、ロブ氏のように、食の安全を考え真摯に向き合っている人々によって支えられている。そして、技術だけに頼らず、行動様式を変えて文化を醸成する、それが目指すべき目標(=食品安全)につながるという姿勢は、どの分野においても学べることが多そうだ。

【Frank Yiannas(フランク・イアナス)のプロフィール】

元米国食品医薬品局(FDA) 食品政策・対応担当副長官 
国際食品保護協会(IAFP)元会長 

ウォルマートとウォルト・ディズニー・カンパニーで30年間指導的役割を果たした後、 直近では2018年から2023年のあいだ、2つの異なる政権下で米国食品医薬品局(FDA) の食品政策・対応担当副長官を務めた。キャリアを通じて、新しく革新的な方法で食品安全基準を強化し、また近代的で科学的な根拠、技術的に可能な予防原則に基づく効果的な食品安全管理システムを構築する役割を果たしたことで評価されている。

【Dr. Rob Donofrio (ロブ・ドノフリオ)のプロフィール】

Neogen Corp. 最高科学責任者

食品安全、動物安全、ゲノミクスの各事業におけるグローバル研究開発組織を統括。ミシガン工科大学で博士号、デュケイン大学で理学修士号、デイトン大学で理学士号を取得。 ラボの設計や認定を含むラボマネジメント、新製品やメソッド開発、技術開発やスカウティングのためのアイデアやイノベーションなどの専門知識を有する。現在では、SIMB, AOAC Global Councilなど様々な業界団体の理事も務める。

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