2022.8.18

【佐渡島庸平】コルク設立10年で考えるコンテンツビジネスの“いま”と“これから”

StoryNews編集部

株式会社コルク 代表取締役 佐渡島庸平 

株式会社コルク 代表取締役 佐渡島庸平 

課題解決キーワード:「あえて課題探しはしない」 

『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』──談社に在籍していた頃、編集者として数々の大ヒットマンガを手がけてきた、佐渡島庸平氏。2012年に独立し、クリエイターエージェンシー「コルク」を設立。同社は“物語の力で、一人一人の世界を変える”をミッションに掲げ、現在は縦スクロール型マンガのプロデュースに注力している。 

紙からウェブへ。インターネットの進展とともに、変化していくコンテンツのかたち。コルクの設立から約10年が経ったいま、佐渡島氏はその変化をどう捉えているのか。また、新時代のマンガとも言える、縦スクロール型マンガにどのような可能性を感じているのか。佐渡島氏に「これからのコンテンツビジネスのあり方」について話を聞いた。 

ストーリーをつくる人の価値をネットで最大化したい 

コルク設立の経緯を語る佐渡島氏、SHIBUYA QWSにて photo / Koutarou Washizaki 

──コルクの設立から、約10年が経ちました。 

佐渡島「クリエイターのエージェント業」というのは、欧米の先進国では一般的なビジネスモデルです。例えば、アメリカでは出版社とエージェント会社、メディアと映画スタジオといったような形で均衡関係が生まれていて、お互いが緊張感を持って仕事をしています。その結果、良いコンテンツが生まれ、産業自体が成長していった。 

一方、日本にはエージェント業というモデルが存在していなかったんです。日本ではテレビ局の下にドラマなどを制作するスタジオがあり、作品の著作権はすべてテレビ局が保有しています。また、出版社もテレビ局との関係も深いため、出版社の編集者に認められれば作家として成功し、作品をメディアに載せるといったことも可能でした。欧米の先進国と比べ、日本のコンテンツビジネスには良い意味での“緊張関係”がありませんでした。 

もちろん、制作までの過程がワンストップになっている方がやりやすい側面もありますが、それでは緊張関係が生まれず、結果的に産業自体が大きくなっていかない。 

自分がずっと身を置いてきた出版業界に“エージェント”というモデルを入れることで緊張関係が生まれ、出版社と作家の双方が成長していくのではないか。そう思い、講談社を退職したあとに「コルク」というクリエイターエージェンシーを立ち上げました。 

当初は欧米の先進国では一般的な“緊張関係の仕組み”をつくりたい、という思いからスタートしたのですが、この10年でクリエイターを取り巻く環境も変化しました。インターネットの発展とともにYouTubeといったプラットフォームが台頭し、そこに制作した動画をアップロードするYouTuberやVTuberといった新しいクリエイターが登場。彼らのエージェントを務めるUUUMやANYCOLORといった会社も生まれ、スピード感を持って大きく成長しています。特にANYCOLORの上場は大きな注目を集めました。 

YouTuberやVTuberを筆頭に、インターネットを舞台に活躍する新しいクリエイターがどんどん生まれている。そうした中、コルクは”ストーリーを作る人たち”の価値を誰よりも信じ、彼らの価値をインターネットの中で最大化したいと思っています。 

インターネットの中で活躍するクリエイターのエージェント会社ではなく、インターネットを中心にストーリーをつくる人たちのエージェント会社でありたい。今はそんな思いを持ちながら、日々会社の経営と向き合っています。そういう意味では、この10年で会社としての目指す方向が社会の変化とともに少し変わったのかもしれません。 

進化の速度は、マンガ黎明期よりも早い 

──変化という観点では、縦スクロール型マンガも台頭してきています。 

佐渡島:縦スクロール型マンガはよく“マンガのDX化”と言われるのですが、個人的には“マンガのインターネット化”だと思っています。マンガのDX化は、Kindleを筆頭とした電子書籍のことだと認識しています。やはりアナログなデータがただデジタル化されただけでは、不便に感じる部分も多いんです。例えば、ニュースが分かりやすいと思います。 

過去にニュースがDX化されたときはタブレット端末などで新聞が大きくできたり、小さくできたりしたわけですが、それだけでは不便だった。そこにインターネット上で分かりやすくニュースが読める「スマートニュース」が登場し、受け入れられた。個人的にスマートニュースはニュースをインターネット化したサービスだと思っています。 

よりインターネットに適したフォーマットのマンガということで、縦スクロール型マンガはマンガをインターネット化した。日本では紙のマンガが普及していたからこそ、先にデジタル化が進んでいきましたが、韓国、中国ではそもそもマンガ産業自体が大きくなかった。だからこそ、先にインターネットに適したマンガが生まれていったんです。そして、スマートフォンが普及した今の時代に適したマンガの形として、縦スクロール型マンガが受け入れられている。そんな状況なのかな、と思っています。 

ただ、従来のマンガがなくなるとも思っていません。例えば、ゲーム業界では任天堂のゲームが今も素晴らしいものであるという認識は変わっていませんが、2021年に中国発の企業・テンセントが任天堂の売上を抜きました。よりインターネット的なゲームを開発しているテンセントが、ゲーム業界で圧倒的な地位にいた任天堂を抜いた。それと似たような動きが出版業界、特にマンガの領域で起きてくるだろうと思っています。 

テンセントが提供していたゲームも初期の頃はクオリティが低かったのですが、年々クオリティが上がってきて、プレーする人の数も増えている。縦スクロール型マンガが登場し始めたのは約10年前のこと。ようやく韓国でも「質が上がってきたね」と言われるようになったレベルです。そういった意味では、まだまだ進化の余地があります。 

PTAから「こういうものを読むと良くない」と言われてきた中、30〜40年の時間軸で進化を遂げてきた日本のマンガと比べると、縦スクロール型マンガはずいぶん早いスピードで進化してきている。今後、表現技術も含め、すべての面で進化していくんだろうと思います。 

──縦スクロール型マンガの普及により、クリエイターのかたちも変わりますか? 

佐渡島:変わると言うか、常に変わり続けていますよね。マンガ家も最初の頃は独立していて、個人で事務所を持っていたわけです。さいとう・プロダクション、ちばてつやプロダクション、ダイナミックプロダクションといったプロダクションがあったのですが、時代の変化とともに出版社を通して仕事をするのが一般的となりました。それと同じような動きが、縦スクロール型マンガにも起こるのではないかと思っています。 

また、縦スクロール型マンガは従来のマンガよりも制作過程の作業量が少し多い。従来のマンガは家内制手工業のようなかたちで、まだまだマンガ家がアシスタントを雇うというモデルが一般的で組織化が進んでいない。マンガ家が得意なのはストーリーづくりであって、組織化ではないので、それは当たり前なのですが、縦スクロール型マンガは組織化していかないと難しい部分がある。クリエイターに必要なスキルも変わるのではないかと思います。 

自分自身が「早く続きを出して」と思えるようなものができたら勝ち 

photo / Koutarou Washizaki 

──縦スクロール型マンガにおける、コルクの考え方について教えてください。 

佐渡島:縦スクロール型マンガはまだ産業が立ち上がり始めた状態です。自分が持っている知見はすべて勘違いかもしれない。今後、コルクが10年生き残れるのかどうか、という感覚を持った上で「よーい、どん」というかたちで一歩を踏み出したところ。将来、どんな変化が起きるのか分からないので、とにかく必死に生き延びていくだけです。 

必死に生きて行った結果、自分たちにどんな変化が起きるかのも分かりません。「これが正解」といった固定観念に縛られず、「これは楽しいのか」「これは面白いのか」「自分たちにとって最高なのか」を問い続けていく。そういうスタンスでやっていきます。 

とはいえ、ずっと赤字の状態では事業が続かないので、一定の成功もおさめる必要がある。組織の人数も増やしながら、トライアルの量も増やしていきたいと思っています。 

──過去に『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』といった大ヒットマンガを手がけてきましたが、縦スクロール型マンガのヒットに必要な要素は何だと思いますか? 

佐渡島:『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』も必死にやったらヒットした、という感覚なんです。ヒットの方程式などはありません。もし、そんな方程式があるなら、みんながヒット作を生み出していると思いますよ(笑)。 

マンガのような創作物は内容が面白くなければ、自分自身も読まなくなってしまいますし、途中で飽きてしまいます。今のところ、自分が読んでいて面白いと思う縦スクロール型マンガはないからこそ、とにかく面白くて、作家に「早く続きを出して」と思えるようなものができたら勝ちなのではないか、と思っています。そして、それを何本も生み出せる組織をつくれるかどうか。それがこれからの自分の勝負です。 

『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』のように自分が心から「好き」と言える縦スクロール型マンガが生まれる状況をいかに早くつくれるか。『ドラゴン桜』も『宇宙兄弟』も自分がすごい好きだと思っているのに、世間が存在を知らなくて売上が立っていない状態が「悔しい」と思ったからこそ、売れるための取り組みを必死にやりました。自分が「好き」と大切に思っているものは結果的に広まるし、イケるだろうという感覚しかありません。 

だからこそ、自分が面白いと思う縦スクロール型マンガをまずは自分が制作にコミットして生み出す。その後、自分がほとんどコミットしていないのに、すごく読みたいものが次々に生まれてくる。そんな組織ができていると、理想的だなと思います。 

──そのためにはどんなことが必要だと思いますか。 

佐渡島:一人ひとりのメンバーが自分たちで意思決定できるようにすることです。細かい意思決定を繰り返すことで思考の精度は上がっていくからこそ、自分たちが意思決定している実感をどう持ってもらうか。もちろん、簡単なことではありませんが、きちんと権限移譲のタイミングを見極めて、一人で意思決定できるような体制をつくれればと思います。 

Web3の考え方が「エンタメ」を滑らかにしていく 

photo / Koutarou Washizaki

──佐渡島さんはエンタメDAOプロジェクト『SUPER SAPIENSS』の縦スクロール型マンガの制作にも携わっています。 

佐渡島:『SUPER SAPIENSS』はフィナンシェ代表の國光宏尚さん、映画監督の堤幸彦さん、本広克行さん、佐藤祐市さんが指揮をとり、サポーターと一丸となって映画の原作づくりから映像化に至る全プロセスの一気通貫に挑むプロジェクトです。 

自分は普段、コルクのリーダーという役割を担っていますが、『SUPER SAPIENSS』ではフォロワーとして、自分たちがつくる縦スクロール型マンガを通してプロジェクト自体を盛り上げる、という役割を担っています。個人的には、フォロワーシップ(自律的・主体的にリーダーに働きかけ、支援すること)を磨くチャンスだと思っているんです。 

自分に与えられた役割の中で最大限のパフォーマンスを発揮することで、リーダーたちにどれくらい刺激を与えられるかどうか。会社を経営していると、自分のフォロワーシップを鍛える時間はなかなかないので、すごく良い機会をいただけたなと思っています。 

──エンターテインメントにおけるDAOの可能性をどう考えていますか。 

佐渡島:ジャニーズやBTSのファンコミュニティは、DAOっぽいものだと思います。そういう意味では、昔からDAOのようなものは存在しているんです。 

DAOの概念はエンターテインメントビジネスには最も自然なもの。今まで、ファンは自分の人生を犠牲にしながら好きなアイドルを応援していたかもしれなけれど、DAOの概念を取り入れることで応援自体が副業的な取り組みになり、自分の生活を犠牲にせず、好きなアイドルを応援することができる。そんな時代がやってきていると思っています。 

電車や高速道路といった社会インフラは生活を滑らかにするために進化を遂げてきましたが、エンターテインメントは不要不急のものという扱いだったため、なかなか仕組み自体が滑らかなものになってこなかった。だからこそ、エンターテインメントを滑らかにする仕組みとしてWeb3やNFTの考え方が注目を集めているんだと思います。 

NFTによって今まで価値あるものと思われていなかった行為が価値あるものになっていく。例えば、食べログがない時代は新しくオープンしたレストランに行ってご飯を食べている人は浪費家と思われていたかもしれないですが、今の時代ではグルメ系のインフルエンサーとしてその人のレビューが評価されるようになっています。そして、それはグルメだけでなく、あらゆる領域で発生しています。超本気で取り組んでいたことが仕事になる。インターネットによってそれが可能になり、DAOやNFTといったWeb3の考え方がそれをさらに加速させていく。個人がクリエイターとして、より生きやすくなったと思います。 

ストーリーの良さはソフトタッチできること 

photo / Koutarou Washizaki

──この10年振り返ってみて、一貫して持ち続けてきた考え方はありますか? 

佐渡島:自分は、会社は「社会の公器」だと思っています。自分が稼ぎたいのであれば、フリーランスになればいいだけ。そうではなく、会社という組織をつくってメンバーと一緒にやっているからこそ、社会のためになっているかどうかを考え続けてきました。 

そうした中、2〜3年前にようやく会社のビジョン、ミッションもメンバーと議論して固まりました。今までは「心に届ける」という言葉を使っていたのですが、「届ける」という言葉がどこか一方的なんですよね。コルクが目指すのは制作した作品が心に触れるという感じ。「押し付ける」「渡す」でもなく、気がついたら触れていた。ストーリーの良さはソフトタッチできる点にあると思っています。そうした細かい違和感をメンバーがよく口にしていたんです。そうした考えを聞いたときに、メンバーがみんなで働くにあたってコルクが掲げるべき旗を本気で考えてくれていたのだと思いました。 

コルク ロゴ
株式会社コルクのロゴとミッション

個人的に会社の中で居心地が悪かったり、問題が起きたりすることは話し合いのきっかけだとしか思っていません。そこから良い話し合いが起きればいい。これから、“物語の力で、一人一人の世界を変える”というミッションのもと、より社会のためになることをやっていけたら、と思っています。 

「課題解決しよう」とは思っていない 

photo / Koutarou Washizaki

──最後に佐渡島さんが課題解決について考えていることを教えてください。 

佐渡島:自分は「課題を解決しよう」と思って起業してないんですよ。課題解決型のビジネスの最たる例はリクルートだと思います。世の中の“不”を探し、それを解決する。 

今までの時代はずっと課題があり、医療とか高齢化とかその課題が大きければ大きいほど儲かりやすかったんだと思います。ただ、これからは無駄と言いますか、不便益を楽しむ時代になっていくと考えています。例えば、昨今人気のスノーピークは「良いキャンプを楽しむ」というある種の不便益を提供しているわけです。もはや多くの人は課題を解決してもらうことを求めているのではなく、心が退屈しない状態を求めるようになっている。 

あえて言うなら心の課題。ここに対して、コルクは何を提供することができるのか。暇つぶしできるようなものを提供している会社もありますが、自分たちは全員の心に触れることができ、その人の世界が変わっていくようなストーリーを提供する。そしてその人たちの生活が豊かになっていくことを目指していければいい。心が豊かになるようなストーリーを提供し、そこからグッズやファン同士がコミュニケーションできるコミュニティといった形で、いろんな形でストーリーに触れられる接点を生み出せる会社でありたいと考えています。 

【佐渡島庸平プロフィール】 

株式会社コルク 代表取締役 

1979年生まれ。中学時代は南アフリカ共和国で過ごす。東京大学文学部卒。2002年講談社入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。 

2012年講談社退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを設立。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集や著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテイメントのモデル構築を目指している。 

【佐渡島庸平のStoryを作った本】 

『沈黙』 著者:遠藤周作 出版社:新潮社 

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