【伊藤謙 あいホーム(第2回)】もし工務店3代目社長がドラッカーに出会いDXしたら ~コロナ禍に受注率3倍!~
株式会社あいホーム 代表取締役 伊藤 謙
課題解決キーワード:「企業の目的は、顧客を創造することである」
宮城県仙台市エリアで住宅事業を展開している株式会社あいホーム。伊藤謙氏は3代目社長として、多くのDXで結果を出してきた。
大学でピーター・ドラッカーの経営学にはまり、住宅業界の枠を超えたDXの発想で次々直面したピンチをチャンスに変えてきた伊藤氏。ドラッカーに心酔し、工務店のDXでドラッカーの思想を実践した伊藤氏のストーリーを紐解く。
コロナ禍の渦中に社長就任
社長就任とウッドショック
伊藤氏があいホームの3代目社長に就任したのは2020年5月。まさに新型コロナウイルスの感染拡大を受け、全国に緊急事態宣言が発令された直後だった。誰もが経験したことのない危機。あいホームも当然、コロナ禍の大きなあおりを受ける。
その一つが「ウッドショック」。コロナ禍によって木材の価格が高騰した。一方、リモートワークは推進され、郊外戸建住宅のニーズは増加。それにより、木材の需要に対し、供給が
追いつかないという現象だ。
「木材が仕入れられないというのは住宅事業者とって死活問題だ」(伊藤氏)
コロナ禍のピンチをチャンスに転換
社長就任直後に「コロナ禍」、「ウッドショック」というダブルショックに直面、これは住宅産業全体にとっての死活問題とも言える大きなピンチだった。
ここでも、伊藤氏はこのピンチを「企業成長のチャンス」だと捉えたのだ。これまでいくつものピンチをチャンスへと転換してきた発想法をフルに活用した。
このダブルショックで、これまで以上の効率化やコストの見直しを検討していった。
こうした取り組みを進めることで、今まで変革できていなかった課題が浮き彫りにされていった。
「効率化やコストの見直しに取り組むなかで、DXの機会を見出した。これがまさに、コロナ禍で、見つけられた大きなチャンスである」(伊藤氏)
外出自粛のピンチをどう乗り切るか
顧客の来場が激減
住宅販売は人と人が相対し、現場やモデルハウスを見て商談していく。工務店においてコロナ禍で最も危惧されたのが、現場やモデルハウスへの来場者の激減だ。
外出自粛で、あいホーム自体もオンラインを中心とした業務運営を余儀なくされていた。
しかし、あいホームはコロナ禍以前からオンライン対策を進めていたのだ。コロナ禍の業務のオンライン化にもスムーズに移行できた。
「顧客と直接的なコミュニケーションが図れない状況をDXで乗り切れないだろうかと考えた」(伊藤氏)
スマホで住宅の内覧
顧客の来場の激減に対して、あいホームのとったDXが、「バーチャル住宅展示場」の開設
だ。スマートフォンで実際のモデルハウスが内見できるシステムを構築した。常時20棟ほどの現場を見学可能。月平均2000件ほどの「来場」を確保している。
社員の営業もDXでチャンスに転換
Zoomロールプレイングで受注が3倍に
あいホームのコロナ禍の施策として重要項目として取り組んだのが、営業のDXとそれに伴うスタッフの強化だ。顧客と直接会えない中での営業。そこで活用しているのがZoomである。
以前は2ヶ月に1度、店舗と店舗をつないでZoomロールプレイングを実施していたが、コロナ禍となり週1ペースで対人コミュニケーションを強化。オンライン商談用にトークスクリプトも作成した。営業スタッフは普段より多くの練習ができため、顧客へのアポイント率は飛躍的に向上。受注率はなんと約3倍になった。
DXで顧客とのコミュニケーションの質が向上
「初めはZoomの操作さえ覚束ないスタッフがほとんどだったが、現在は100%のスタッフがIDの発行からレコーディングまでを完了できるようになった」(伊藤氏)
オンライン商談によって顧客と相対する回数が減ったことにより、スタッフの業務も省略化された。さらにスタッフだけでなく、顧客にとっても住宅購入までのプロセスの省略化に繋がった。また、ZOOMの打ち合わせは全て録画していたので、顧客の住宅に対する細かな要望などが漏れなくスタッフに伝わった。「言った」「言わない」といったトラブルも減り、顧客満足の向上に繋がった。
人との信頼関係を構築するという“アナログ”な目的に対して、Zoomという“デジタル”のツールで効果を上げた。「顧客が来場できない」、「営業スタッフが直接会いに行けない」というピンチをDXによってチャンスに変えることができた。
ドラッカーの「顧客創造」を実践するには
「顧客創造」をDXで実現
あいホームは「クラウド型顧客管理システム」の導入から、「LINEによる顧客とのコミュニケーション」、「バーチャル住宅展示場の開設」、「Zoomによるロールプレイングと商談」など、さまざまなDXを展開している。まさに、ドラッカーが提唱する「顧客創造」を実現するためのDXを展開しているのだ。
アクションを起こさなければ何も変わらない
あいホームがDXのスタートが切れたのは、技術畑で育った情報システム部門があったわけでも、ITに知見のある外部の専門家による包括的なコンサルティングを受けたわけでもないのだ。
クラウドサービスの導入を始めとするDX戦略。一見するとハードルが高いように思う経営者もいるかもしれない。だが、重要なのは最初のアクションが取れるかどうかに尽きる。
「自らネットで調べてみる。または製品説明セミナーを参加してみる。とにかくサービスに触れて、担当者に話を聞くことが大切。」(伊藤氏)
「顧客の満足」を超える「顧客創造」を生み出す
「顧客第一主義」というのは、多くの日本企業が掲げている理念だ。顧客を満足させるよう
な商品やサービスを考え、提供することに注力する。しかし、社会は時代の流れとともに変化し、顧客も変化する。つまり、顧客のニーズは刻々と変わるのだ。「顧客の満足」のみを追求していては、時代の後追いとなり成長は難しくなる。
ひと口に顧客創造と言っても、簡単に実現できることではない。市場環境を把握し、ターゲットの顧客に「新たな価値」を気づいてもらわなければ、創造など不可能なのだ。本質に向き合うことが顧客創造への第一歩だとすると、現状の無駄を省き、考える時間を創出するDXが、企業の成長へと近づくのではないか。
「DXは、ドラッカーが提唱する顧客創造を実現する手法に適している。DX施策によって、業務の効率化や簡略化を図ることが可能。これにより、業務時間が短縮され、考える時間が生まれる。今まで労力を費やしていたものをシステム化することで、社員がより顧客創造に注力できた」(伊藤氏)
「あ、いい」の企業理念で100年企業をめざす
次のDXは新人スタッフの戦力化
さて、あいホームの次なるDXによる戦略は何か。それは新人スタッフの戦力化だ。毎年6〜8人ほどの新入社員を雇う同社。コロナ禍の昨年も8人が入社している。あいホームが学
生に向けて発信している主なプラットフォームは、インスタグラム。ライブ配信などで企業の活動に興味を持ってもらう。そうして入社した新戦力をどのようにして即戦力にしていくか。それをDXによって実現させようと模索している。
「あ、いい」の理念で顧客と社会を創造する
あいホームは1959年に、建築資材専門店「伊藤商会」として創業。今年で62周年を迎えた。伊藤氏が目指しているのは100年企業と年商100億円だ。この先約40年の継続と売り上げ増加に、新戦力は必要不可欠だろう。
最後に伊藤氏の理念について。伊藤氏は社長に就任して以降、一番の経営の目的を考えていた。まず、自身が学生時代に誓った「スタッフの暮らしを豊かにすること」。そして「仕事に飽きたくない」ということだった。
「自分の理念をひと言で表すと『あ、いい』。これは素晴らしい商品やサービス、人に出会った時、心から出る言葉であり、住宅においては口コミの源泉でもあると思う。顧客から、地域から、スタッフから『あ、いい』と言われるように。そして、自分自身が飽きることなく常に『あ、いい』と思える仕事をしていきたい」(伊藤氏)
【伊藤謙 プロフィール】
代表取締役 伊藤謙
1984年、宮城県生まれ。
2020年5月に先代社長の実父より代表権を引き継ぎ、新社長に就任。工務店のIT・ネット活用を高速で実践し、コロナ禍で前年比130%増の新規受注を実現。「100億企業、創業100年企業」をビジョンに掲げる。最新のIT機器やシステムを積極活用し、固定概念を壊しながら、住宅業界のアップデートを推進している。
明治大学商学部卒業。桐蔭学園卒。一級FP技能士、宅地建物取引士、インテリアコーディネーター。古民家鑑定士。
【伊藤謙 著書】
『地域No.1工務店の圧倒的に実践する経営』~DXで生産性最大化、少数精鋭で高収益!~著者:伊藤 謙 出版社:日本実業出版社
【伊藤謙のSTORYを作った本】
『プロフェッショナルの条件-いかに成果をあげ、成長するか』
著者:ピーター・F・ドラッカー(上田 惇生 訳) 出版社:ダイヤモンド社