2022.2.3

【小柳卓蔵 小柳建設】建設DX旗手のDX成功法は企業文化を変えること

小柳 卓蔵

小柳建設株式会社 代表取締役社長

小柳卓蔵 小柳建設株式会社

小柳建設株式会社 代表取締役社長 小柳卓蔵

2018年に経済産業省が「DXレポート」を発表して以来、日本でもDXという言葉が広まりました。しかしDXに明確な定義があるわけではありません。私はそれよりも前から改革に取り組み、結果として「建設DXの旗手」と呼んでいただけるようになりました。今回はその道のりについてお話したいと思います。

DXが進まない建設業界

私は金融系の企業に勤務した後に、2008年27歳で小柳建設に入社し、父である社長(現・名誉会長)のもとで働きはじめました。前職の企業とは違う建設業界のアナログな仕事の進め方に驚愕し、このままでは建設業の未来はないと思うようになりました。

例えば情報は全て紙でやりとりしており、何年か前の資料を探すのに1週間かかるといったことが日常茶飯事でした。ワークフローも存在せず、消しゴム1個を購入する申請書も全て社長がハンコを押していました。

建設業界では受注をしてから建設工事が完成して売上が計上されるまで、短くても数か月、長いものは数年かかるものもあるなど長いスパンがあることが特徴です。そのため経営者は頭の中で年度単位の大まかな売上と利益しか把握していないケースもよくあります。

父は、新事業を積極的に展開する“挑戦の人”でした。浚渫(しゅんせつ)という河川 の底面に堆積した土砂やヘドロを掘削する重労働で危険な作業を新潟県で初めて機械化し、現在でも工法が受け継がれています。そんな父も会社の現状に不安を抱いていたのでしょう。私が改革を提案すると、全面的に受け入れてくれました。

デジタル化というと、インターネットやテクノロジーを使うことと思われがちですが、私は会社の状況を見える化することだと考えています。私はいつも「デジタル化」を時計に例えて説明しています。アナログ時計とデジタル時計がありますが、アナログ時計も電池で動いているので、機械です。ではなぜアナログと呼ばれるのでしょうか。アナログ時計は短針と長針の角度を見て、「7時20分ぐらいだな」と大まかに時間しかわかりません。それに対してデジタル時計は7時21分19秒というように正確に時間を把握できます。ビジネスでも同じように、経営指標の数値をいつでも正確に把握する必要があると考えました。

ヒントはアメーバ経営

しかし当社の実態はデジタルとは程遠いものでした。毎月経営会議をして利益見込みが出てくるのですが、決算期近くになると利益の数字がガクンと落ちます。上半期の成績が良ければボーナスが増えるので、嘘の数字を並べることが横行するという危機的な状況だったのです。

こうした状況を打破するには経営を学ばなければならないと考え、経営に関する本を読み漁った時に出会ったのが、京セラの稲盛和夫氏が提唱する「アメーバ経営」でした。

稲盛さんは「経営はコックピットの中にいるようなものだ」とおっしゃっています。コックピットの中で気温や高度、緯度経度といった数値が把握できなければ、安全に飛行することができません。アメーバ経営では指標がリアルタイムに出てくるため、会社の状況がガラス張りで嘘がつけない仕組みになっています。明確な指標を掲げることで、経営者感覚を持つ人材を育成するという目的もあります。指標による経営と人財育成の両輪で進めていく考えに感銘を受け、経営の神様と言われる所以がわかったような気がしました。こんなすごい方が同じ時代に生きていることを貴重に思い、とにかく真似をしてみようと考えました。

アメーバ経営を学んで一番衝撃的だったのは、指標や人財育成より以前に「会社を経営する上で経営理念が最も重要である」という考えです。思えば前職でも経営理念を毎日朝礼で唱和しており、知らず知らずのうちに社員の共通言語となっていました。経営理念というのは、会社がとるべき進路です。示された進路に向かって社員全員が進むために不可欠なものです。

本社のある新潟県は雪深い地域で、冬になると毎日のように除雪作業を行ないます。社員が夜中に作業しなければならない過酷な労働です。こうした仕事を「我々がやらずに誰がやる」という社会貢献の気概で父は牽引してきたのですが、社会貢献が当社の使命だという考えが浸透したことで、全ての仕事をボランティア活動と勘違いする人が出てきました。利益が出なければ社員に還元できないというビジネス感覚が薄れていたのです。そこで経営理念を改めて作ろうという考えに至りました。

父に相談すると「創業者が作ったものがある」と教えてくれました。創業者である祖父の作成した経営理念には「社員の福祉の増進」ということが書かれていました。昭和の時代に社員の待遇を良くしていこうと祖父が考えてくれたことがわかり、とても嬉しかったのを覚えています。社員に幸せになってほしいという創業者の思いもこめて、経営理念をわかりやすく再構築しました。

DXの成功要素

私が企業改革に取り組みメディアに出始めた頃から、いろいろな方に「どうしたらDXが実現できますか」という質問をいただくことがあります。私は、DXは企業文化を変えることだと考えています。テクノロジーはそのための手段に過ぎません。

アメーバ経営に出会った当時の私は、まず「利益を出して社員に還元する」という考えを社員に浸透させること、そしてそのためのルールと仕組みを作っていくことに取り組みました。

中でも大きな改革となったのが「時間当たりの採算表」の導入です。建設業においては、建設工事の工期が長く、常に利益を把握することが難しいという問題があります。そこで施工に必要な資材がどれだけ使われたかで出来高をリアルタイムで算出することにより、利益の見える化を図りました。

また、総務部門や経理部門についても「この部門の作業を何時間行ったから、これだけの費用を請求する」という社内売り買いの仕組みを作りました。こうすると全ての部門の採算を評価できます。

毎日、社員は日報により作業にかかった時間を報告すると同時に、残業の申請も行ないます。上長は、その時点での収支を見て、本当に残業が必要かを精査します。残業するならその分の成果も出さなければならないからです。この仕組みにより、当社はこの3年で平均年収が30~40万円増えたにもかかわらず、残業を減らすことができました。巷では「残業代を稼ぐ」という言葉がありますが、いかにナンセンスであるかがわかります。

当社はDXという言葉ができる前からこうした取り組みをしています。DXを実現するために取り組んだのではなく、経営理念を浸透させ、ルールや仕組みを構築したことが、結果的にDXを実現する形になりました。アメーバ経営を取り入れていなくともDXを実現している企業は存在しており、必ずしもDXの前提がアメーバ経営となるわけではありません。しかしリアルタイムで指標を把握するアメーバ経営は、DXと非常に親和性が高いと言えます。

DXを成功するためのポイントは次の3つだと考えています。

チャレンジする風土を作る

当社は利益を還元するための人事制度を作り、チャレンジした人をより評価する仕組みを磨いてきました。毎年、社員は達成するべき目標を自分で決めています。目標は難易度の高いものでも、簡単に達成できるものでも構わないのですが、同じステージ(等級)であれば、難易度の高い目標を掲げた社員の方が評価は高くなります。こうすると自然と社員がチャレンジする風土が作り上げられます。最近では若手社員がどんどん新しいテクノロジーを使い、会社の業務を変革しています。

部門間で矛盾しないKPIを設定する

例えば「店舗の在庫を最小化する」と「倉庫と店舗の輸送費を最小化する」というような矛盾したKPIを設定してしまうと、店舗部門と倉庫部門が協力して改革を進めることができません。当社はKPIをできるだけシンプルにすることを心がけ、全体のKPIは営業利益に一本化しています。営業利益は会社の強さを表す指標であり、営業担当者が利益を出す提案ができる能力を伸ばすことにもつながります。

公平な人事制度を作る

人事制度がない会社では若い人も不安だろうということで、2012年から人事制度の導入に着手しましたが、正直なところアメーバ経営の導入よりも苦労しました。役職をなくしてステージという職務等級制度に近い考え方を導入したのですが、給与は変わらないのに役職がなくなることに抵抗がある古参の社員も多く、大変でした。しかしどのような能力があれば次のステージに進めるのか、それがわからなければ頑張りようがありません。客観的な評価ができるようになるまで、何度も試行錯誤して基準を作り上げました。

建設業のクラウド化

もう一つ大きな取り組みとなったのが、情報システムのフルクラウド化です。

2011年に新潟・福島豪雨災害が発生し、本社のある新潟県三条市は大きな被害を受けました。災害対応というと、自衛隊や警察が真っ先に動くというイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし最初に現地に駆けつけるのは、実は地元の建設会社なのです。地元の建設業者が受け入れ環境を整備してから、自衛隊や警察が到着する流れになっています。

2011年の水害では、浸水してサーバーの情報が全て失われたために、廃業に追い込まれた企業もありました。「災害で真っ先に仕事をする建設会社のサーバーが、社内にあっていいのだろうか」ということを改めて考えさせられました。また、社内にサーバーがあると、システムのメンテナンスや機器の更新を自社で行なわなければなりません。IT企業ではない当社がサーバーのお守りをするのも非効率だという思いもありました。

クラウド化に踏み切ったのは、場所を選ばずに働くことができる環境を作りたかったという理由もあります。建設業では、それぞれの建設現場で仕事をするため、ある意味リモートで働いていると言えます。そうした人たちが、社内にいるのと変わらずにコミュニケーションができるように、さらに内勤の人についても働く場所を選べるような環境にしたいと考えました。

この時には時間当たりの採算表が社内で定着しており、クラウドとオンプレミスでどれだけ費用がかかるのか、どれだけの作業が必要なのかという比較も簡単にでき、費用は同じぐらいかかるが、クラウドの方が効果が高いという結論になり、すんなりと導入が決まりました。

しかし基幹システムのクラウド化については、かなり苦労しました。基幹システムをクラウド化するにあたって、古参の管理部門長をアサインしたのですが、現行のシステムをそのままクラウドに移行しようとしていました。その結果、クラウド化しても業務の効率化ができないばかりか、アナログな部分をデジタル化するのに非常に時間がかかるという問題が発生しました。そこで別の人をアサインし、システムを再設計してようやく形になってきたところです。

基幹システムがクラウド化されたことにより、アプリケーションが全面的にWeb化されました。社内ポータルから全てのシステムにアクセスできるようになったことで、バラバラでわかりにくかったシステムが統合されました。あらゆる情報を集約したことで、利便性だけでなく、透明性も高まりました。現在は各部門の採算状況を公開しています。予定と実績をグラフで見ることができ、アメーバ経営の透明性をシステムでも体現しました。

建設業がDXを実現するための課題

私は直面する課題を解決したことで、結果的にDXが実現できたと思っています。しかし中小企業の建設業の社長は、課題解決する意識が薄い傾向があります。

「建設業界 DX革命」を出版した理由は、“どうしたらDXを達成できるのか”と聞かれることが多かったためです。この本が建設業界を変える一石を投じられたら幸いです。

建設業でDXを実現するためには、経営者の世代交代は必要だと思います。社長が若返ったとしても、先代のイエスマンであってはなりません。新しい価値観を持ち、建設業の仕事を若い人が望んで入ってくるような「お洒落で楽しい仕事」に変えていく必要があります。業界を変えるためには単なるIT化では足りないのではないかという思いを長年抱いていました。それがマイクロソフトと当社によるMR(複合現実)技術を使った建設DXシステム「ホロストラクション」の共同開発につながっていきました。

新しい価値観のアップデートとDX

DXという言葉はよく知られるようになりましたが、実は定義があいまいです。そのためどうしたらDXが実現できるのかわからないという経営者も多いようです。DXは、企業が抱える課題、業界の課題を解決する取り組みにより、自ずと実現されると考えています。テクノロジーはその手段に過ぎません。

京セラの稲盛和夫氏が提唱する「アメーバ経営」は小柳建設をDXに導くヒントとなりました。経営理念を社員に浸透させ、指標をガラス張りにすることで会社全体を改革することができました。

情報システムのフルクラウド化も課題解決の手段のひとつです。情報を社内ポータルサイトに集約したことで、透明性が高まり、社員はいつでもどこでも情報にアクセスできるようになりました。

新しい価値観を持って課題解決に取り組むこと、それがDXを実現するための重要なポイントとなるでしょう。

著者プロフィール:小柳卓蔵 (おやなぎ・たくぞう)

小柳建設株式会社 代表取締役社長

1981年新潟県生まれ。金融会社に勤務していたが、祖父の代から続き父が経営する小柳建設に2008年に入社し、管理部門、総務・人事部門などを担当。常務、専務を経て2014年6月社長に就任。京セラ創業者である稲盛和夫氏の本『アメーバ経営』を読み、同氏の主宰する塾に参加、同氏のフィロソフィを会社に浸透させて盤石な基礎を築き、伝統を重んじる建設業界にあって、DXを推進。2016年日本マイクロソフトと共同でMicrosoft HoloLensを活用し、建設業における計画・工事・検査の効率化やアフターメンテナンスのトレーサビリティを可視化する「Holostruction」のプロジェクトをスタートさせた。

【著書】
『建設業界 DX革命』著者:小柳卓蔵(幻冬舎)
『ホロストラクション完全マニュアル』著者:中靜 真吾(幻冬舎)

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