2022.2.28

スリープテック企業ニューロスペースが提言 睡眠改善の経済効果は一人あたり年間12万円  

StoryNews編集部

株式会社ニューロスペース 代表取締役社長 小林孝徳

株式会社ニューロスペース 代表取締役社長 小林孝徳 

課題解決キーワード:「戦略の基本は最も効果の上がりそうなところに最強の 武器を投じること(リチャード・P・ルメルト)」 

ニューロスペースは、ビジネスパーソンの睡眠への不安を改善して、個々人の眠りの質を向上させるだけではなく、企業の業績をも向上させるスリープテック事業を展開している。 

ニューロスペースの代表取締役社長の小林は、睡眠資本主義を掲げており「きちんと睡眠をとると仕事の効率が良くなり、企業全体の業績もアップします。睡眠は個々人にとっても企業にとっても資本そのものなのです」と語る。 

スリープテックが「睡眠負債」ブームで注目される 

2017年にはメディアが「睡眠負債」の問題をこぞって取りあげた。睡眠負債とは“意識しない程度に毎日わずかずつ積み重なる睡眠不足”のことで、睡眠の借金と例えられる。 

時間を気にせずに、眠ってみて普段より余分に眠った時間が、たまっている睡眠負債だといわれる。この睡眠負債を、休日にまとめて返済しようとして、寝だめをすると体内時計が狂ってしまう。生活リズムは崩れ、かえって健康を損ねるリスクが高くなる。 

こうした情報が広く知れ渡ったことは、ニューロスペースのスリープテック事業にとっては追い風となった。 

「ネットから問い合わせしてくれる企業が増えたのは、2016~2017年頃でした。」(小林) 

2016年6月に2人目の取締役を迎え、2017年6月に3人目の取締役を迎えた。 

「それまでは、ほぼ私ひとりですべての業務をこなしていました」(小林) 

2016年3月に吉野家ホールディングスを顧客にした実績から、物流業界やIT企業などからの問い合わせが増え、業務がどんどん忙しくなっていった時期だった。 

睡眠改善で一人年間12万円の経済効果 

ニューロスペースは、早稲田大学政治経済学術院の大湾秀雄教授と共に研究発表をしている。大湾教授の専門は人事経済学、組織経済学だ。 

「睡眠の改善は1人あたり、年間12万円の経済効果を生むという結果が出ました」(小林) 

発表は2021年8月、日清食品グループの従業員を対象に、睡眠と経済効果の相関関係を検証した。およそ200名の従業員をランダムに2つのグループに分けた。睡眠改善プログラムを提供するグループと何の介入もしないグループだ。 

3ヶ月間経って、2つのグループの生産性を比較すると、時間管理能力、集中力と仕事の成果が改善されたのは、ニューロスペースの睡眠改善プログラムを受けたグループだった。 

生産性総合指標は有意水準5パーセントの改善がみられ、これを換算すると1従業員あたり、年間12万円の経済効果があると算出された。 

プログラムを提供したグループ全体では年間1350万円を超える経済効果になるとの算出もされた。しかも従業員ひとり一人が健康を保てることを考えれば、健保の支出も抑えられることになる。まさに小林の睡眠資本主義の理念を立証する研究となった。 

日本の睡眠の課題を訴える 

2021年10月8日には、自民党のメンタルヘルス議員懇談会に招かれた。 

OECD加盟国の中では、睡眠時間の短さが韓国を超えて日本がワースト1位になっているデータを示した。OECD加盟国の平均睡眠時間は8時間25分であるのに対して、日本の平均睡眠時間は7時間22分にとどまっている。 

こうした睡眠の課題による経済損失は年間15兆円で、GDPの3パーセントを占める。 

「2018年にニューロスペースで調査した結果、日本のビジネスパーソンの7割を超える人たちが睡眠に不安を抱えていて、理想の睡眠時間と実際の睡眠時間とには1~2時間のギャップが生じていることを訴えました」(小林) 

高血圧患者の40パーセント、糖尿病患者の60パーセント、うつ病患者の90パーセントが、睡眠トラブルを抱えている。様々な疾患に睡眠が関わっている。 

就労中の生産性が低下して、残業時間がかえって増加し、やがては体調不良による欠勤、あるいは退職につながる。企業が負担しなければならない損失コストは、低リスクで59万円、高リスクだと172万円にのぼることを示した。 

睡眠に最適な働き方を提言 

日本の睡眠の課題を示したうえで、次のような提言をした。ひとつは、勤務間インターバル制度の義務化であり、もうひとつはリモートワークの推進である。 

勤務間インターバルとは、勤務終了から次の勤務まで11時間を空けることを指す。2019年4月には、厚生労働省によって努力義務化されている。 

「11時間のインターバルを設ければ、就労者はその時間内で睡眠を充分にとるゆとりが生まれます」(小林) 

導入企業割合は現在4.2パーセントだ。これを2025年までに15パーセント以上に引き上げる目標を厚労省は掲げている。 

自民党の勉強会の場には、厚労省の職員も列席していた。小林は「努力目標ではなく、いますぐに義務化を」と訴えた。 

「睡眠衛生リテラシーの普及は、国の施策として広めていただきたい」(小林) 

「良質な睡眠をとるためにはどうしたら良いのか。睡眠には生まれ持った性質はありますが、良い睡眠をとれるかどうかは、技術に拠るところが大きいのです」(小林) 

リモートワークを睡眠の視点から分析 

リモートワークは、コロナ過の対策として企業に浸透した。 

「通勤に費やす時間が軽減されることで、削らなければならなかった睡眠時間に充てることができる。リモートワークはその方向で進めなければなりません」(小林) 

小林は、リモートワークの2極化を危惧している。 

「通勤時間がなくなって睡眠時間が増えたケースは良いのですが、就寝する直前までパソコンに向かうなど、睡眠に悪影響を及ぼす働き方も増えています」(小林) 

寝る直前まで、パソコンやスマホの画面が発する光(ブルーライト)を浴びると、寝つきか悪くなり、睡眠の質も低下する。 

睡眠に関与するメラトニンというホルモンがブルーライトによって消失するからだ。 

「すなわち睡眠は技術なのです。寝る前にブルーライトを浴びないようにするのは、誰もが取り組める技術です」(小林) 

目覚めのためには、朝の光を浴びることが重要である。起床してから太陽光を浴びると、セロトニンというホルモンが産生され、しっかりとした覚醒を呼ぶ。 

この朝のセロトニンが日没後にはメラトニンに変わる。覚醒のセロトニンと睡眠のメラトニンは、活動と休息のリズムを刻むホルモンだ。 

リモートワークの落とし穴がここにもある。 

「通勤をすれば外出によって太陽光を浴びます。しかし起床してから家の中のカーテンを閉めたままでリモートワークの仕事を始めてしまう人もいます。セロトニンを産生できないので、覚醒がぼんやりしてしまいます。メラトニンも身体の中に作られないので、寝つきが悪くなり、睡眠の質も低下します」(小林) 

ニューロスペースのスリープテック事業 

ニューロスペースでは、睡眠の技術を数多くアドバイスしている。 

就寝する前に入浴して、深部体温を上昇させておき、眠りにつくときには、手足から放熱させて体温をわずかに低下されることで、深い眠りにつける。 

筋弛緩法も、睡眠技術のひとつだ。布団の中でギュッと全身の筋肉に力を入れ、バッと脱力して筋肉を緩めることで、入眠しやすくする。 

また、「睡眠パーソナリティーを把握することも、睡眠衛生リテラシーを進めるうえで重要だ」と小林は言う。 

「睡眠には、生まれついての個性があります」(小林) 

朝型、昼型、夜型など、どの時間帯にその人の活動が活発になるか。これがクロノタイプだ。 

必要な睡眠時間の長さも睡眠パーソナリティーである。短時間の睡眠で充分な人と、長時間の睡眠を必要とする人がいる。4時間睡眠で脳も身体もリフレッシュできるショートスリーパーがいる。8時間以上の睡眠をとらないと、脳と身体がリセットできないロングスリーパーがいる。 

「100人に1人いるかいないかのショートスリーパーに倣えとばかり、4時間睡眠で頑張ろうという風潮で、多くの人が真似して体調を崩しています」(小林) 

睡眠パーソナリティーが存在することを理解すれば、企業のリーダーの部下への評価や期待が変わるかもしれない。 

「Aさんは朝一番に出社するから有能だ。それに比べてBさんは午前中ボーッとしている無能だ……というような不当な評価が改善されるかもしれません」(小林) 

適材適所というが、適材適時間があると理解されれば、ひとり一人が最大限のパフォーマンスを発揮できる職場が生み出されると、小林は期待している。 

スリープテックで目指す社会 

小林は、現在のスリープテックで企業の睡眠改善するビジネスの先にある想いを語る。 

「眠りの不安をなくして、社会を発展させたい」(小林) 

睡眠に不安を抱えている人はまだ3千万人いるといわれている。 

「いまは多くのユーザーを擁している企業とタッグを組んで、睡眠に悩む人たちの眠りを改善していますが、2030年までには、いま取り残されている3千万人の睡眠不安を0人にしたいと目標を掲げています」(小林) 

これからの展望を尋ねると 

「ドラッグストアのビジネスは、美容と健康ですが、ここに睡眠を加えたいで 

す。また、寝具を軸にしたビジネスモデルも考えられますね」(小林) 

多方面のアプローチで、幅広く社会全体の睡眠を改善したいと小林社長は意欲を燃やしている。 

第1回はコチラ 

【小林 孝徳 プロフィール】 

株式会社ニューロスペース代表取締役社長 

1987年生まれ。新潟大学理学部物理学科卒。素粒子物理学専攻。2013年12月にSleepTechベンチャー・株式会社ニューロスペースを設立。 睡眠の悩みを根本的に解決すべく、大学や医療機関と連携し『法人向け 睡眠改善プログラム』を開発。吉野家やANA、DeNA、東急不動産ホールディングスなどの大企業を中心にこれまで約100社1.5万人以上のビジネスパーソンの睡眠問題を解決してきた。あらゆる人々の眠りの不安をなくし、社会が持続的に発展するために睡眠が必須である文化を創出することをビジョンとしている。 

【小林 孝徳 著書】 

『ハイパフォーマーの睡眠技術』~人生100年時代、人と組織の成長を支える眠りの戦略~ 著者:小林孝徳 出版社:実業之日本社 

【小林 孝徳のSTORYを作った本】 

『良い戦略、悪い戦略』著者:リチャード・P・メルト 訳:村井章子 出版社:日本経済新聞出版 

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