【GridBeyond】アイルランドの電力テクノロジー企業が日本市場へ本格展開。
電力安定供給に欠かせない“デマンドレスポンス”とは
電力の安定供給に対するリスクは日本だけでなく世界各国でも課題となっています。近年では、化石燃料安定供給不安のほか地震や豪雨などの災害も原因の一つと言えるでしょう。
インテリジェントエネルギービジネスを英米などで展開するGridBeyond社(本社:アイルランド/マイケル・フェランCEO)は需要応答によって電力の安定供給に貢献する「デマンドレスポンス」に注力。同社でコマーシャル・マネージャーを務める天内俊介氏は「電力を最適化、分散化させる“デマンドレスポンス”という仕組みが注目されている。特に日本と同じ島国であるイギリスやアイルランドは最先端の電力市場であり再エネ比率も高い。脱炭素を目指す日本の未来といえる。弊社は2022年11月に日本法人を設立する予定」と語りました。
デマンドレスポンスの仕組み
通常のデマンドレスポンスは消費電力の節約。一方、同社が展開するデマンドレスポンスは「容量市場」、「需給調整市場」、「卸電力市場」にそれぞれkW、⊿kW、kWhの価値を供出し、市場取引によって収益を得ることが可能です。また、電力契約区分の特高・高圧の大口産業需要家向けであり、人口知能と機械学習を駆使して電力消費と市場取引を自動的に最適化します。つまり、焼成路や電解設備といった多大な電力を消費する大口需要家にとっては、操業に一切支障なく新たな収益を生み出すことができるということです。
一般的にデマンドレスポンスといえば、電力網の指令に基づいてスイッチを切るという受動的な行動です。同社のデマンドレスポンスでは、最初にテーラーメイドの仕組みをつくったあとは、すべて自動化されています。天気や発電データなど70以上のデータを解析、自動的に電力消費を最適化かつ市場取引も行います。例えば、電力の投資信託のようなイメージでしょう。天内氏は「弊社は1,000分の1秒の応答サービスを英米で展開できる技術力を有している。取引市場とつながり、蓄積されたデータとAIを駆使してエネルギーを最適化し、日々自己学習をして最適化の精度を高めている」と話します。
制御装置「タッチポイント」
同社のデマンドレスポンスビジネスに欠かせないのが制御装置「タッチポイント」です。もともと同社は2010年、ワイヤレスセンサービジネスから事業をスタート。その技術を生かして自社開発されたハードウェアを顧客のサイトに設置します。これにより同社のサーバーとつながり、顧客サイトにおける電力消費の最適化と市場取引が自動化されます。
「これまで世界中のお客様の操業に一切支障をきたしたことはなく、参入コスト無しのサブスクリプション型で展開している。イギリスのセメントプラントでは1カ月あたり1万2千キロワット相当を消費する複数の機器から“発掘”した電力価値を市場に売却し、日本円にして約480万円の収益をあげている」と天内氏。タッチポイントは、制御と資産モニタリングを可能としたハードウェアプラットフォームと言えます。
旧態依然の日本電力市場に一石
電力は公共性の強い財であることもあり、日本の電力市場もかつての金融機関のように政府による「護送船団方式」のような形で守られてきました。いわゆる、経営体力や競争力に欠ける電力会社が落伍することなく、業界全体をコントロールする行政手法です。2016年にスタートした電力小売りの自由化後もkWhの安売り競争となり、付加価値を生み出せないという現状も。天内氏は「まだ日本はkWhセールスが染み付いており、電力を供給する側に優位性がある。社会が必要とする kWh という供給力を保つことは必須だが、電力市場に新技術を持ちこめるプレイヤーが参入しやすい土壌を構築し、イギリス型のように民主的な電力市場にするべきでは」と提唱します。
データサイエンスやテクノロジーを駆使し、デマンドレスポンスという新たな概念を日本に広めるGridBeyond社。昨年夏、千代田化工建設株式会社と覚書を締結しました。日本の大口産業需要家向けに同社独自のサービス展開するため、法人化の準備が進んでいます。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、電力市場に一石を投じる同社の展開に注目です。