2023.3.1

【松原亮】Oasysが6年後に解散する理由 目指すは“ゲーム産業の公共財”

StoryNews編集部

Oasys PTE. LTD. 代表取締役 松原亮

Oasys PTE. LTD. Representative Director 松原亮
課題解決キーワード:「流水濁らず、忙人老いず」

ゲームに特化したブロックチェーンを開発する「Oasys(オアシス)」。

その代表を務める松原亮氏は、アクセンチュア等で金融機関向けの業務に従事後、ゲームとブロックチェーンに大きな可能性を感じ、当時から積極的にその分野に取り組んでいたgumiに転職。double jump.tokyoでブロックチェーンゲームの開発などに携わった経験を持つ人物だ。彼が現在率いるプロジェクト、Oasysは「ゲームブロックチェーンとして世界一の存在を目指す」と語る一方、6年後には組織を解散(分散化)し、公共財になることも目指しているという。

松原氏はブロックチェーンのどこに可能性を感じ、ブロックチェーン業界でのキャリアを歩み始めたのか。また、6年後に解散する目的とは何か。松原氏のこれまでのキャリア、そしてOasysが変える社会について話を聞いた。

フィンテック企業、コンサルを経てブロックチェーンへ

photo / Yuto Kuroyanagi

──松原さんのキャリアについても教えてください。小さい頃から、ゲーム自体は好きだったのでしょうか?

松原:めちゃくちゃ好きというわけではなく、ゲームは普通にやっていたくらいです。そんなに他の人と変わらないと思います(笑)。初めて触ったゲーム機はファミコン。その後はゲームボーイ、PlayStationなど色々触りました。元号が平成に変わった頃に生まれているので、ちょうどビデオゲームの進化と同時に育っていった世代なんです。

ゲームは学生時代の共通言語でもあったので、プレーしていないと話題についていけなくなる。ドラゴンクエストやソニックなど王道のゲームは一通りやっています。いま、そうしたゲームの開発元である企業と一緒に、ブロックチェーンゲームという新しい領域で世界に向けて勝負できているというのは感慨深いですね。

──松原さんはどういう学生だったのでしょうか?

松原:学生時代は真面目で活発にいろんなことをやっていました。そういう意味では、ちょっと落ち着きがなかったかもしれないですね(笑)。今も世界中を飛び回って仕事をしていますし。高校から海外に興味を持ち始めたこともあり、大学は立命館アジア太平洋大学(APU)という学生の半分が留学生という環境で過ごしました。

──大学卒業後は新卒でフィンテック企業に入社しています。

松原:大学生時代に製造業における韓国勢の台頭と日本勢の衰退を感じ、それと同時にiPhoneが登場してGAFAの隆盛が始まり、ITに大きな可能性を感じました。これからの時代はITが中心になっていくと思ったんです。さらには、高校時代にライブドアショック、大学時代にリーマンショックを経験し、金融とITが世の中に与える影響力の高さを感じました。そうした背景もあり、金融×ITのフィンテック領域で働くことを決め、新卒でフィンテック企業に入社しました。

3年ほど働いた後、自分の中で「もう少し大きい案件をやりたい」という思いもあり、アクセンチュアに転職し、4年ほど証券会社のプロジェクトに携わりました。その頃に少しずつ「ブロックチェーン」という言葉を耳にするようになっていったんです。

当時、ブロックチェーンの活用先として“金融領域”が注目されていたこともあり、証券会社のプロジェクトをやっている立場としては自然と気になりました。その後、多くの人が「金融以外にもブロックチェーンは使えるだろう」と言い出し、ブロックチェーンはすごい技術かもしれない、というような流れになっていったんです。

──ブロックチェーンへの注目から、ゲームに関心が向かったのは何故ですか?

松原:個人的に、ブロックチェーンが何に一番使えるのかを考えたところ、ゲームや仮想世界だろうなと思いました。実際、セカンドライフ研究の第一人者である先生に話を聞きに行ったりするうちに、当時は環境的に仮想世界がワークしなかっただけである事がわかり、ブロックチェーンから始まるメタバースやゲームに今後大きな可能性が生まれるということを確信しました。

それで既存金融の仕組みを改善する仕事から、新しく価値を生み出す側に回りたいと思うようになったんです。次第に自分で事業を立ち上げたいという思いが強くなっていき、起業するか誰かの事業立ち上げを手伝うか、どちらかの道に進むことにしました。

「ブロックチェーン×ゲーム」の可能性を求め、gumiへ

photo / Yuto Kuroyanagi

──事業を立ち上げたいとの思いから、その後どのように動かれたのですか?

松原:いろいろ考えた結果、いきなり起業するというのはハードルが高いので、まずは誰かの事業立ち上げの手伝いから始めよう、と。当時「ブロックチェーン×ゲーム」の可能性について発信しているのは、国内ではgumiだったので、エージェント会社に紹介してもらい、結果的にgumiに転職することにしました。

──gumiではどのようなことを?

松原:gumi Cryptosという子会社ができたので、ステーキング(仮想通貨を保有して報酬を得る仕組み)の事業を始めながらプロダクトの後ろ側(会計・監査法人、暗号資産まわりの法務など)の整備を社内で進めました。上場企業で、そうした部分に関われたのは振り返ってみてもすごく良い経験だったなと思います。

コンサルティング会社からgumiに転職して、ブロックチェーン・暗号資産を上場企業でどう扱うべきかを考える機会もあって、非常に良い経験ができたと思います。

並行して、業界団体を組成し、官公庁との対話を始め、2020 年初頭に自主規制ガイドラインの整備を行っていました。この経験は大手ゲーム会社が多く参画するOASYSの運営に活きてくると思っています。

ゲーム特化ブロックチェーン・プロジェクト「Oasys」の立ち上げ

──その後、doublejump.tokyoに移られた?

松原:はい。gumiはゲーム開発会社で、ゲームを開発している様子を横目で見ていたこともあり、ゲーム開発やコンテンツ開発にも入っていきたいという思いはありました。ただし2021年のタイミングでWeb2に行くわけにはいかないと思い、Web3で新しくコンテンツをつくっているところに入ろう、ということでdoublejump.tokyoに参画したんです。

こうした経験を経て、ゲームに特化したブロックチェーンという新しい基盤を作り、日本から海外に攻めていけるチャンスは今しかない。このタイミングを逃したくないと思い、現在はOasysの開発に力を注いでいます。

ただ、ファミコンも「マリオ」という強力なコンテンツがあったから盛り上がったように、コンテンツがあって初めて基盤の価値が生まれる。エンターテイメント業界は「Contents is King」なので、面白いコンテンツが生まれやすい土壌を整えること。基板だけで勝負はできないと思っているからこそ、Oasysは国内外の大手ゲーム企業と連携し、開発に取り組んでいます。

Oasysが6年後に解散する理由

photo / Yuto Kuroyanagi

──Oasysは最終的には公共財を目指すことも公言しています。

松原:ブロックチェーンそのものが、個人に力を授けるような「Power to the People」的な側面があると思っています。ゲームはContents is Kingの側面があるので最初は強いIPが存在感を放つかもしれませんが、最終的には個人が輝く時代の基盤になるべき。おそらくですが、いま大手ゲーム企業が持っているIP自体も会社のものではなくなり、それもDAO(分散型自律組織)的に運用する未来があると思っています。

そういう意味では、個人がブロックチェーンゲームを開発したいと思ったときに、なるべく開発のハードルがないような基盤を提供していきたいと思っています。コンテンツをつくるのは大変な熱量が必要なので、簡単にはできない部分もありますが。

──6年後に解散、というのもユニークな仕組みです。

松原:Oasys自体、P/L(損益計算書)は存在していますが、利益は追求していません。最初に調達した約25億円という金額は、6年間プロジェクトを運営していくにあたって必要となる金額を見積もったものです。そのため、無駄遣いしない限り、Oasysが潰れないだけの資金はすでに確保してあります。

現在は“株式会社”という仕組みで運営していますが、時間が経つにつれて、株式会社の意味も薄れさせていくことになります。ひとまず、プロダクトが立ち上がらなければ意味がないので中央集権的にやっていますが、少しずつ意思決定を分散化させていく予定です。

法規制整備が進む日本は、注力すべきマーケット

──FTXショックなどもあり、暗号資産に対して不安心理が強くなっていると思いますが、来年以降の展望についても教えてください。

松原:FTXショックなどで、いまは暗号資産市場から相当資金が逃げています。数カ月前の状況からすると、過去最大級に悪い状況とも言えます。それでも人材や資金調達の環境を考えると数年前より全然マシです。それこそ、数年前はゲームは水物、ブロックチェーンはよく分からないということで、ブロックチェーンゲームで資金調達なんて出来ませんでしたから。そう考えると、市場自体は大きくなっている。業界的には3歩進んで、2歩下がるというのを繰り返している感じなのかなと思っています。

ただ、日本は怪我の功名ではないですが、過去にマウントゴックス事件やコインチェック事件があったこともあり、法規制がきちんと整備されてている。アメリカは今までそうした規制がなかったためにグレーゾーンが多くビジネスをしづらい状況でしたが、FTXショックがあって今後規制がつくられるはずです。

世界に先駆けて法規制が進んでいるという意味では、日本は注力すべきマーケットですし、まだまだ世界3位のGDP(国内総生産)がある国です。海外が氷河期になりかけている今だからこそ、日本からどんどん仕掛けていければと思っています。

──最後に松原さんが影響を受けた言葉と本を教えてください。

photo / Yuto Kuroyanagi

松原:影響を受けた言葉は「流水濁らず、忙人老いず」です。大学生の頃に茶道を学んでいたのですが、先生から「流れのある川は水がきれいだけど、淀んで流れない川は濁る」ということを言われ、まさにWeb3業界はそうだなと。変化のスピードが早く忙しいですけど、常に動き続けていればイキイキしてクリーンな状態でいられる。

一方、停滞して同じところにいると、汚れていく。だからこそ、常に前に進んでやり続けるということをモットーとしています。循環させないと死んでしまう。

本は『希望の国のエクソダス』や『歌うクジラ』『限りなく透明に近いブルー』など村上龍さんの小説をよく読んでいました。近未来的で刺激的な世界観が好きなのかもしれないです。

第1回はこちら)

【松原亮のプロフィール】

Oasys PTE. LTD. Representative Director

立命館APU卒業後、アクセンチュア等を経て、2018年からgumiにて、株式会社gumi Cryptos、ブロックチェーンコンテンツ協会立ち上げ、2021年doublejump.tokyoに参画、2022年2月より現職

【松原亮のStoryを作った本】

『希望の国のエクソダス』著者:村上龍 出版社:文藝春秋

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