2022.9.6

【せきぐちあいみ】VRアートの先駆者が語る「一過性のブームで終わらない」VRの可能性

StoryNews編集部

せきぐちあいみ

せきぐちあいみ VR/AR/MR/アーティスト

Meta(当時の社名はFacebook)が開発した「Oculus Rift」などを筆頭に、複数の一般向けVRデバイスが登場したことから“VR元年”と呼ばれている2016年。VRに対する注目度が高まり始めた年に、VR空間に立体的な絵を描く「VRアート」に大きな可能性を感じ、VRアーティストとしてのキャリアを歩み始めたのが、せきぐちあいみさんです。

VRアートの先駆者として、さまざまなアート作品を制作しながら、国内だけでなく海外(アメリカ、ドイツ、フランス、ロシア、UAE、シンガポール、タイ、マレーシアなど)でもVRパフォーマンスを披露。「VRの可能性」をひとりでも多くの人に伝えるため、日々活動しています。また、2021年3月にはNFTオークションで、せきぐちさんのNFTアートが約1300万円で落札され、大きな注目を集めました。

“VR元年”と言われた年に、なぜVRアーティストとしてのキャリアを歩み始めたのでしょうか。そしてVRアートやVRの可能性をどう感じているのか。せきぐちさんに話を聞きました。

VRアーティストとして“VR元年”に活動を始めた理由

──せきぐちさんは、2016年にVRアートを始められました。

せきぐち:VRに出会ったのは今から6年前のこと。“VR元年”とも言われている2016年ですね。それまでは主にYouTuberとして活動していたのですが、偶然VRと出会ったときに衝撃を受けました。初めてVRを体験したときに、「空間に立体が描けるなんて魔法みたいで楽しい」と思いました。新しい感覚に強く心を打たれました。

当時、VRアーティストという職業はなかったのですが、これだけ面白いものは何かしらやりようがあるなと思いました。それまではYouTuberだったことから、周りの人には「また変なことをやっているよ」と冷ややかな目で見られていましたが、自分の中では「VRアートには大きな可能性がある」という確信があり、VRアートを届けていく仕事ができないかと思い、VRアーティストとして活動していくことにしました。

──昔からアートなどには興味があったのでしょうか?

せきぐち:美術館に足を運ぶなどアート自体に関心はありましたが、あくまで独学で趣味的にお絵かきをするくらいです。それこそ、VRに出会う2年前は、ペン先の熱でプラスチックを溶かし出して立体をつくる「3Dペン」というもので遊び始めて。「なにこれ楽しい」と思って、実際に動画にしてみたらメーカー側から公式アーティストをやってほしいと依頼がきたということもありましたね。

私自身、いろんな表現方法を試してきましたが、その根本には人に何かを届けたい、自分が作ったもの、行動したことで心の変化のきっかけ、ワクワクを与えられたらという思いがあります。それがクリエイターとしてのモチベーションになっています。

──当時、VRゲームに取り組む人はいましたが、アートを描く人はいなかったと思います。

せきぐち:ペイントソフトは市販されていたので、VRアートを誰でも書くことはできる状況だったのですが、おっしゃる通りアートを描く人はいなかったですね。それこそ、VRで仕事をしている人はハードウェアを開発している人や販売している人でした。そういう意味では、ユーザーとしてVRで仕事をし始めた第1号だったのかもしれません。ただ、パソコンも昔は一部の人しか使わないものと思われていましたが、今は当たり前のように誰もがパソコンを使って仕事をしています。それと同じように、今後はVRという技術を活用したクリエイターはどんどん増えていくはずだと思っています。

──VRアートを描くための練習はしたのでしょうか?

せきぐち:描くための練習はしましたが、その練習が全く苦ではなかったのです。これまでに色んなことをやってきたのですが、そのほとんどは努力して頑張って取り組んでいた、という感覚でした。ただ、VRは頑張って取り組むというものではなく、やっている間に自然と時間が過ぎているという感覚。体は疲れているのですが、楽しいしもっとやりたいという気持ちが自然と湧いてくるから、これが向いていることなのかなと感じられました。

ただ、それはこれまでにいろんなことを経験したからこそ、気づけたことなのかなと思っています。例えば、過去にダンスをやっていた頃、私はとにかく頑張って誰よりも早くダンススタジオに入って練習し、帰宅してからも練習していたのですが、私よりも練習時間が短い人の方が全然ダンスが上手かったんです。

その子にとってダンスは頑張るというものではなく、クラブに遊びに行く感覚のものだったのだと思います。自然に楽しくてやり続けてしまうものに才能があると思いますし、それが向いてること。そうしたものに出会えたというのはすごく幸せなことなのだなと感じます。

また、これからVRが普及していくことで、見聞きすることだけではなく「実際に体験する」という機会が増えていくはずです。地味で興味ないと思っていたことも実際に体験したらハマってしまうかもしれない。その体験もVRによって広がるとしたら、自分には「これなんだ」と思えるものが体験することで見つけられると思います。

そういう意味では、VRアートという手法に出会えたことで、私はパフォーマンスを通して、これまでに見たことない世界が届けられる。それによって、人の想像力を広げていくきっかけを提供することができたらいいな、と思っています。

──想像力を広げる?

せきぐち:私自身、過去に自分の能力に勝手に限界を決めてしまっていて、「自分なんてどうせこんなもん」「私はあの子よりできないし」と思っていました。でも、私はVRに出会うことで新しい世界の広がりを感じ、自分自身の可能性を感じることもできた。だからこそ、VRアートを通して新しい世界の広がりを少しでも感じられるようにすることで、多くの人の想像力のリミッターを外すきっかけになれたら幸せだなと思っています。

VRのブームは一過性で終わらない

VRアートの可能性を語るせきぐちあいみさん photo / Shunichi Oda

──VRアートの可能性をせきぐちさん自身はどう感じていますか?

せきぐち:平面に描く普通の絵とは違い、VRアートは仮想空間で立体的に描くことができるので、作品に奥行きを持たせたり、360°さまざまな角度から鑑賞したりすることができます。単に絵を描くというよりも、ゼロから世界を創造していく感覚に近いですね。

新しい世界をつくって、そこに誰かを呼び込める。これは今まで神様しかできなかったことだと思うのですが、それが実際にできてしまう。自分がつくった世界、見たことがなかった世界を誰かに体験させられるというのは今までできなかったことですし、すごくやりがいがあります。また、「今のテクノロジーってすごいよ」「未来が広がっているよ」と理屈で説明するのではなく、アートという手法を通じて、VR技術によって私たちの生活はこんなに変わっていくと体験できることがすごく大事だと思います。

実際、アートに詳しくない子どもやおじいちゃん、おばあちゃんにも「こんなことができるの、すごい」とアートを通じて直感的にVRの良さを伝えられています。地方のイベントに行った際、80〜90歳の人にも声をかけてもらったこともある。そういう意味では、老若男女、人種など関係なく、VRの可能性を感じてもらえていると思います。

──VRの可能性が、80〜90歳の人たちにも伝えられている。

せきぐち:VR自体は最新の機器を使っていますが、意外と難しくなく、VRアートの作業自体も基本的にはアナログです。ハードルがそこまで高くないからこそ、子どもやご年配の人たちにも体験してもらいましたが、みんな楽しんでくれました。特に介護施設にいるおじいちゃん、おばあちゃんたちはすごく喜んでくれたのが印象に残っています。

やっぱり介護施設にいると、なかなか部屋から出ることはできないので、擬似的でもいいので別空間に行けるということをすごく楽しんでくれます。私も「最初は嫌がるかな」と思ったのですが、全然そんなことなかったです。みんな楽しんでくれますね。ゴーグル登録のハードルは高いですが、そこを乗り切れば、みんなできると思います。

──VRはここ数年で一気に注目を集めるようになりました。

せきぐち:今の20〜40代の人たちが高齢者になったら、ほとんどの人がVRを活用していくはずです。そこに大きな可能性を感じています。VRは新しく生まれたジャンルで、これから盛り上がり、大きなビジネスチャンスと言われていますが、そのブームは一過性では終わらないと思っています。なぜなら、社会や人間のためになるからです。

ご年配の人たちからすると、自由にどこかへ行けることはすごく豊かなことですし、世界と繋がって何かできるのはすごく幸せなことです。それは世界と繋がって何かクリエイティブなことをするという大それたことではなく、擬似的にでも孫に会えるということだけでも幸せなことだと思います。そういう意味ではVRはご年配の人や障がいのある人の可能性を広げてくれると思いますし、地域間の格差も埋めてくれる。それだけでなくジェンダーや人種にもとらわれないですし、低コストで建築物を建てることもできます。

私自身、VR空間上に美術館を立てているのですが、その美術館には世界中の人が来てくれます。現実世界で美術館を常設するとなると多額のコストがかかりますし、海外の人にとっては移動のハードルなどもある。ただ、VR空間では低コストで美術館をつくることもでき、飛行機での移動などの必要もない。環境にも優しいです。人や社会のためになる要素があるものは、決して一過性のブームでは終わらないと思います。

もちろん、コロナ禍もあって急速に注目が集まったという側面もあります。可能性はあるものですが、少し早めに騒がれすぎているところは多分にある。もちろん、今すぐにみんながVRを使う世界にはならないし、これから苦戦する部分もたくさん出てくると思います。VRデバイスも毎日身に付けたいレベルになっていないですけど、VR自体は間違いなく伸び続けていくから、今すぐやるかは興味次第ですが、可能性を感じているのであれば今から着手した方がいいと思います。その経験は決して無駄にはならないと思います。やっぱり画面で見るのと実際に体験することは大きく違います。情報だけを見てVRのことを知った気になるのはよくない。

──VRアートで実際に、こう意識が変わったというものはありますか?

せきぐち:VR空間に入って、360°ある空間に立体的なものをつくっていくことで、足元や裏側などを注視するようになり、モノをいろんな角度で見るようになりました。それ自体は私にとって良い影響だったなと思います。

今の若い世代の人たちは、スマートフォンという平らな画面で物事を見ることがすごく加速している。スマートフォン上から得られる情報は世界とつながって膨大ですけど、やはり少し薄っぺらな側面がある。そういう部分でも、人間にとって良い影響はあると思います。

もしかすると、足元や裏側などを意識するというのは昔、山の中で暮らしていた人たちが当たり前に持っていた感覚なのかもしれないですね。足元をちゃんと見ていないと何かモノにぶつかったりするかもしれない。そういう意味では、大自然の中で生きてきた人間が持つ感覚をVRで再び教えてもらえるのかな、と感じています。

VRアートで日本庭園や神社など「和」をテーマにするワケ

VRアートは世界に通じると話すせきぐちあいみさん photo / Shunichi Oda

──せきぐちさんは、VRアートについて「世界各国で受け止め方に差がない」と仰っていますね。

せきぐち:これまでいろんな国に行かせていただいたのですが、この国のリアクションが良かった、悪かったというものがないですね。どの国もすごく良いリアクションをとってくれます。VRアートは新しいアートの形を楽しんでもらえるものだからこそ、これは国や流行りとか関係なく、人に響くものだと確信を持てました。

──みんな、どこか懐かしいものに会っている感覚でしょうか?

せきぐち:そうだと思います。VRアートは新しいものだから見たことはないと思うのですが、誰もが子どもの頃に「魔法を使えばこんなことはできる」と思っていたことが具現化できるものだから惹かれるのかと思います。

大人になると「現実世界では不可能」と考えが凝り固まってしまうからこそ、子どもの頃の自由な発想を可視化できるVRアートに対して、懐かしさを感じるのかもしれないです。そこが国にかかわらず、共通している部分なのかもしれないです。

──VRアートの作品で日本庭園や神社など「和」をテーマにされています。それはどのような理由からでしょうか?

せきぐち:私が単純に日本的なモチーフが好きということもありますが、それだけでなく日本庭園や神社などはVRとの相性が良いと思っています。

そもそも、日本庭園などは“空間”を大事にしてつくられたものだと思うので、VR空間で表現するものとして適していると思います。また、日本は土地の問題もあって、狭い空間にどうやって素敵な場所をつくるか、ということにも長けているので、VRの空間づくりにおいては日本にも大きなチャンスがあると思っています。

平安時代に書かれた日本最古の庭園書『作庭記』を読んで、すごく勉強になりました。ここから見たら素敵というだけでなく、別の角度から見ても素敵なものにする。また、奥ゆかしさを持たせる点などはVRアートを制作する際の参考にしています。

庭園自体、庭に大自然の景観や宇宙を表現している側面があるので、それはVRにも通ずる部分がある。壮大な景色を身近に持って来るという部分では同じところがあると思っています。とはいえ、「日本的なものが海外ウケがいいんでしょ」という安易な気持ちでやると、その考えは相手に伝わってしまう。どんなに技術が進化しても、技術の向こう側にいるのは同じ人間。「これなら売れるでしょ」という安易な発想は相手にも見透かされてしまうと思うので「自分が本当にいいと思うものを届けよう」というのはすごく大事にしています。

提供:クリーク・アンド・リバー社

──NFTアートが約1300万円で落札されたことも大きな注目を集めました。

せきぐち:最初は「こんな高額で落札されるとは……」とびっくりした部分もあるのですが、その一方でVRアートをやっているからこそ、将来的にはデジタルの世界でもうひとつの人生を楽しむようになり、そこでいろんな市場が生まれるだろうとは思っていました。そのデジタル世界で当たり前のようにデータが売買されるようになっていくと思っているので、そういう意味ではデータに価値がつくことに驚きはなかったです。

私たちの日常にはすでにデジタルが溢れており、これがもっと加速していくとなると、デジタルデータに価値がつくのは当たり前だろうなと思っていました。ただ正直、ここまで早く来るとは思っていなかったです。VRやARが普及し、デジタルデータのやり取りが当たり前になってから、NFTやブロックチェーンなどのデジタルデータの価値を担保するものが生まれるだろうなと思っていました。いずれ来る流れなのだろうなとは思っていたのですが、そこに対してパッと素早くハマれたのは幸運だったなと思います。

──NFTなどが普及することでクリエイターは活動しやすくなりますか?

せきぐち:NFTのデータは誰がつくって、誰がいま持っていて、どういう風にお金が動いたかが可視化される。それを世界中から見ることができ、誰も改ざんできない。すごくクリーンな仕組みでつくった人にお金が入るし、いろんな人たちにとって良い形になると思います。ロイヤリティという二次流通の手数料が制作者に還元される仕組みもいい。転売という行為がネガティブなものではなくなっています。

NFTによって権利がより明確になるので、クリエイターが活動しやすくなると思います。そして、これからあらゆる分野にメタバース、NFT、ブロックチェーンといったものが関わるようになり、私の生活や仕事の仕方に大きな影響を与えると思います。

そうした技術は私たちの生活を大きく変えてくれるものだと思っているからこそ、新しい技術による世界の広がりをVRアートを通じて身近なものとして感じてもらえたらいいですね。難しい技術が伝わらなくても、「VRやNFTによってアートの形が広がっているんだ」と、まずは楽しく感じてもらいたいと思っています。

個人的には新しいテクノロジーをうまく取り入れながら、現実の世界にある日本の自然、景観も大好きなので、現実でしか味わえない部分を楽しむ生活にしたいですね。デジタルばかりの生活になるとは思っていません。自分がリフレッシュできる場所はリアルにあるからこそ、そういう現実の良い部分と新しいテクノロジーのバランスを上手くとって、それぞれの良さを感じられるようにすることが大事。そういう意味では、VR空間内で現実の良さを感じられるエッセンスを入れられないか、といろいろ試してみたりしています。

活動の軸は「臆せず新しいことに挑戦していく」

photo / Shunichi Oda

──VRアートを制作する際、どこからアイデアのヒントを得ていますか?

せきぐち:現実世界で不変的な価値ある場所、例えば世界中の聖地や世界遺産などからヒントを得るようにしています。ただ先日、経済学者の成田悠輔さんと対談した際に、成田さんから「現実にないような、サイケデリックなものの方がリラックスできる可能性もある。私たちの想像を超えたデジタルでしかつくれないような新しい場所もあるのではないか」と言われ、成程と思いました。今までは現実世界からヒントを得ようと思っていたのですが、固定概念にとらわれず、現実の素晴らしい場所からヒントを得つつも、今の私には想像もできないような世界をつくっていけたらいいと思う。何が正解かも分からない世界だから、常にチャレンジすることを大事にしていきたいと思います。

──せきぐちさんの中で影響を受けた人物はいますか?

せきぐち:明確に「この人」というのはいません。ただ考えなどに行き詰まったときに「トップの人だったらどう考えるか」は大事にしています。やっぱり自分の考えはたかが知れているので、意外としょうもないことで悩んでしまいます。

だからこそ葛飾北斎やプリンセス天功、水森亜土など「この人のここのエッセンスが好き」という人は自分の中に何人かいて。その人だったら、こういうときにどうするかを考えると、大体のことは「そんなことで悩む必要ない」と思えるのですよね。

私の学生時代は視野が狭くて失敗してしまったなと思うことが多く、視野が狭いとどうしても数年先にやっている先輩、身近なコミュニティでうまい人と自分を比較して劣等感を抱いてしまう。ただ、世界的に見たら意外と落ちこぼれの人の方が価値があることもある。自分の目に入ることだけで比べてしまうのは良くないなと思うので、私は世界のトップや歴史上の偉人などを意識するようにしています。

そのため、ライバルも意識的につくらないようにしています。もともと、人と比較して劣等感を抱いてしまっていたので、コンテストなどにもお声がけいただくことがあるのですが、人と比較されるのが好きではないので断っています。

──活動する際の“軸”にしていることも教えてください。

せきぐち:臆せず新しいことに挑戦していくことは常に心がけています。私は美大出身ではないですし、経歴のあるアーティストでもない。ちゃんとしたステップを踏んでないですし、自分自身もまだまだ未熟だと思っているからこそ、人よりも新しいことに挑戦していく行動力、スピード感は意識しています。例えば、「未熟な若手のアーティストだ」と思っているのであれば、NFTがこれから来るかもしれないとなったときに、様子見てから始めているのでは遅いわけです。様子を見ている間、私は停滞しているだけ。低レベルなところにいるのに、ただ見ているだけでは何も変化が起きません。一歩踏み込んでみて、仮に失敗したとしてもそこから得られる学びは必ずある。何か発見があるので、常に動くことを心がけています。自分に自信がない、このままではダメだと思っているから新しい挑戦をする。技術力、センス、才能は一朝一夕では身につきませんが行動力や度胸は今日身につけようと思ったら身につけられる。そして、繰り返し行動していくことで、後から足りない技術力の部分などが伸びていくのではないか、と思っています。

例えば、同じ3年間でもひとりで地道に何年も絵を描き続けるよりも、いろんなところに飛び込んで失敗したり、傷付いたりしながらやった方が確実にスキルも伸びると思います。私にとっては、いまかっこ悪いことよりも、おばあちゃんになったときにとんでもない世界を作る方がずっと大事だから、常に行動することを心がけています。

VRはあらゆる企業・自治体が活用できるチャンスがある

photo / Shunichi Oda

──VRアートが社会にもたらす可能性をどう感じていますか。

せきぐち:VRは社会を大きく変える可能性を秘めており、そしてアートはその入り口を広げてくれる要素にもなると思っています。アートをきっかけに、難しくてよくわからないものも直感的に魅力を感じられる。VRアートが心で「なんか面白いかも」と思ってもらえるような架け橋になったらいいな、と思っています。

また、VRが解決する課題はたくさんあります。まずご年配の人たちの生き方を広げられる。「社会とつながって何かするぞ」という思いも叶えられますし、擬似的に孫に会うこともできます。他にはジェンダーやルッキズムの壁も壊せます。VR上で出会って仕事をするときに、途中まで性別を知らないのはよくあること。現実で問題を抱えている人ほど開けるものがあると思いますし、障がいのある人も、好きな姿になって活動することもできる。

街という観点では現在、現実の世界から収集したさまざまなデータを、まるで双子であるかのように、コンピュータ上で再現する技術「デジタルツイン」が注目を集めており、建築業界では建築物のシミュレーションをVR上でできたりします。さらには、美容師の教育にもVRが使われています。具体的にはカリスマ美容師が講師として教えに来たとしても、手元を見なければいけないのに20〜30人もいると全く見れないわけです。ただ、VR上であればプロの手元が自分の目の前にあるように感じられる。そして、住んでいる場所は関係なくどこの場所にいてもカリスマ美容師の技術を学ぶことができる。そういったことを踏まえると、VRはあらゆるジャンルで活用されていくな、というのを日々感じています。

とはいえ、まだ純粋に魅力を感じていない状態でビジネスチャンスばかりが先行して語られているので怪しく見えたり、嫌悪感を持ったりしてしまう部分もあると思います。だからこそ、まずはVR空間上に魅力を感じられる場所をつくっていく。その役割の一端をVRアートが担うことができたらいいな、と思っています。

──企業や自治体はどう活用すべきですか?

せきぐち:すべての企業、自治体と何かしら相性が合うと思っていますし、すでにVRやNFTを活用する自治体も出てきています。個人的には、パソコンやスマートフォンが出てきたときと同じだなと感じます。当時はパソコンやスマートフォンが自分の仕事と関わると思っていなかったでしょうが、今はほとんどの人にとって関わるものになっています。また、私は広告システムがない時代からYouTubeをやっていて、当時はほとんどの人がバカにしていましたが、今はあらゆる企業、自治体が活用している。そうやって、最初は受け入れられなかったけど、あらゆるジャンルに関わってくることはすごくあると思います。特にVRはその要素が強いです。もちろん、VRに可能性を感じていないならやる必要はないですけど、今後自分も何か関わるかもしれないという気配を感じているなら、今すぐ一歩を踏み出してほしいですね。アカウント登録して遊んでみる、というのでもいいと思います。

──VRがリアルに、リアルがVRにそれぞれに影響を与え合うことがあるのでしょうか?

せきぐち:今後あらゆる体験がVRで得られるようになっていくと思います。普通の人生では体験できないこと、夢のあるような面白い体験もできますし。自分が好きな偉人の体験もできるでしょう。そうなると新しい体験に価値を感じるようになっていくはずです。

新しい体験という価値がVRの中に生まれてくることによって、現実世界での生き方も変わってくる。まだ明確にどう変わっていくのかは見えていないですが、生き方が変わってくるであろう節目にいる、というのは私にとってすごく興味深いです。

また、VR体験中に本来感じるはずの無い感覚を経験できることを「ファントムセンス(VR感覚)」と呼ぶのですが、それを実現するスーツなども開発されています。そうしたことも踏まえると、VRでの体験がすごくリッチなものになっていく。だからこそ、これは現実でないとできないよね、というものの価値は相対的に高まっていくと思います。

──今後メタバースやVRが成長していくなかで、せきぐちさんはどのような役割で何をしたいですか?

せきぐち:みんなが自由に、良い生き方をするのを導く役割を担えたらいいな、と思います。まずはVRという新しい世界が広がるイメージを届けて、テクノロジーを活用しながら楽しく生きることの面白さを伝えていきたいですね。私は現実も大事にしながら、テクノロジーを活用して生きていくことが人生を広げていくと思うので、それを導くことをやっていきたい。

また、VRやメタバースという場所を魅力的に感じられるようにしていきたいと思っています。みんなの心の拠り所になる。純粋に良い場所だと感じられる場所が必要だと思い、最近は神社とのプロジェクトを進めています。VRやメタバースを魅力的に感じられる場所にすることで、人の想像力を拡張していきたいな、と思っています。

【せきぐちあいみ プロフィール】

VR/AR/MR/アーティスト
https://www.creativevillage.ne.jp/lp/aimi_sekiguchi/

クリーク・アンド・リバー社所属。滋慶学園COMグループ・VR教育顧問。Withings公式アンバサダー。福島県南相馬市「みなみそうま 未来えがき大使」。
VRアーティストとして多種多様なアート作品を制作しながら、国内にとどまらず、海外(アメリカ、ドイツ、フランス、ロシア、UAE、タイ、マレーシア、シンガポールetc)でもVRパフォーマンスを披露して活動している。2017年、VRアート普及のため、世界初のVR個展を実施すべくクラウドファンディングに挑戦し、目標額の3倍強(347%)を達成。2021年3月には、NFTオークションにて約1300万円の値を付け、落札された。
Forbes Japanが選ぶ2021年の顔100人「2021 Forbes Japan100」にも選出

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