【中村幸弘】5Gに隠れたリアルなビジネスとは?
MECを前提とした際の端末や通信形態に関するビジネス
前回は、MECに着目して5Gに関するビジネスチャンスについて説明させて頂きました。今回は、MECが進むことを前提として、5Gに関するビジネスについてさらに考察を進めていきたいと思います。
MECを前提とした端末に関するビジネス
前回説明しましたように、MECによりシンクライアント化が進むと予想されます。それにより、端末に求められる性能がChromebookのように軽くなっていくと考えられます。従って、端末に関しても、従来とは異なるビジネスビジョンを持つ必要があるのではないでしょうか。
主として端末にデータ処理を行わせている現在においては、例えば、端末に対して、より高性能なCPUを付与する、メモリーやバッテリーを大容量化するという風に、高性能、新機能を付与することが考えられてきました。いわば、端末に対して「足し算」のビジネスビジョンが持たれていました。
では、シンクライアント化の進行により端末に求められる性能が軽くなる時代においてはどのようなビジネスビジョンを持つことが有効でしょうか。
今度は逆に、端末に対して「引き算」のビジネスビジョンを設定することが重要となるのではないかと考えます。「引き算」とは、端末のこれ以上の高性能化、高機能化が必要なくなります。このため、今後必要とされないものを「引き算」していくことで、逆に、端末に新たな価値を付与するという考え方です。
例えば、端末の処理性能を軽くするという「引き算」を行うことにより、端末の小型化・軽量化が可能となったり、バッテリーの持ちをよくできたりという付加価値を付与可能となります。また、バッテリー等の各部品を小型化できたり、部品点数を少なくしたりすることができるため、端末形状の自由度を高めることも可能となるかもしれません。具体的には、端末のウェアラブル化等も容易になりそうです。
「引き算」により小型・軽量化、形状自由度の向上等が可能となるのみならず、引き算により低減できたコストや重量を他の機能の実現に割り当てることも考えられます。 例えば、ヒューマンインターフェースとしての機能付与や機能向上を、コストや重量を増大させることなく実現し得るのではないでしょうか。具体的には、人に触れる部分の改善、視覚や聴覚等の感覚に関する機能の付与や向上を図ることが可能となると考えられます。
このように、端末に関しては、まず「引き算」を考え、さらにそのうえで従来あまり考えられていないヒューマンインターフェース等としての機能の付与や向上を考えていくことで、今後の5G、MECが普及していく時代におけるビジネスチャンスを拡大していけるのではないでしょうか。
なお、「引き算」を行うに際しては、MEC側の性能向上など、MEC側の変化を的確に想定することが
重要になると思われます。MECで新たに実現される機能、さらには、サーバーと端末との新規接続ツールの機能を的確に想定することによって、端末において「引き算」すべきものを好適に決定できるようになると考えられるからです。従って、今後は、端末の開発においても、端末のみに着目するのではなく、MECや接続ツールなど、端末の周辺環境にも着目することが重要になると考えられます。
MECを前提とした通信形態に関するビジネス
ここまでMECを前提とした5Gビジネスについて述べてきました。上述の通り、MECでは、主としてサーバー側でデータ処理を行います。このため、処理後の大容量のファイル自体をサーバーと端末との間で送受信する必要も出てきます。従って、MECが進むにつれて通信量が飛躍的に増大してネットワーク負荷が急速に増大すると予想されます。そうすると、通信に必要な電力量も増大し、端末側のバッテリー容量や電力設備の増強など、端末の高性能化や新たなインフラの整備等が必要となってしまいます。
ここにもビジネスチャンスが潜在しているかもしれません。MECが導入されたときの通信や電力量の増大を抑制するSplashtopのようなツールや構造の開発がひとつのビジネスチャンスになり得るのではないでしょうか。
例えば、処理後の大容量データ自体を送受信する形態ではなく、サーバーに保存された処理後データを端末から閲覧できるようにすることで大容量ファイル自体の通信、電力量を少なくする仕組みをつくることも考えられます。
例えば、サーバーと端末との間でデータを送受信する際に、データが自動的に圧縮される仕組みをつくることも考えられます。
このような仕組みの開発は、5Gの大きなビジネスチャンスや環境にも優しい電力量を抑える取り組みとなり得ると考えられます。