2022.7.12

【中村幸弘】単なる通信規格ではない。5Gネットワークに隠されたリアルなビジネスとは

中村幸弘

中村幸弘

5G規格の注目ポイント、MECを中心としたビジネスを考える

5Gの3つの特徴からは新しいビジネスが生まれにくい

新たな通信規格として、5G(5th Generation Mobile Communication System)規格が広まりつつあります。 5Gは、従来の通信システムに対して、さらなる高速大容量化、低遅延、多数接続可能を達成しようとするものです。高速大容量化することで高画質を実現し、さらに低遅延化することでリアルタイムな動画等を提供し、多数接続可能とすることでIoT化の加速が狙えます。ただし、これらの5Gの方向性は、従来の3G,4Gの方向性と比較して目新しいものとは言いにくいものです。このため、この方向性では、新規ビジネスの発想にはつながりにくいものかもしれません。

たとえ5G規格をフルに活用したビジネスを考えたとしても、即座にリアルなビジネスには繋がりにくいかもしれません。ひとつの理由として、現在の端末のスペックが5Gの規格をフルに実現できるスペックには遥かに及んでいない部分が挙げられます。このため、5Gがフルに活用できるビジネスモデルを現時点で考案したとしても実際にビジネスを行うことが難しいかもしれません。例えば、5G規格が定める20Gbpsという通信速度を想定して新たなビジネスモデルを考案したとしても、それが実現できる端末が存在しない以上、現時点においては絵に描いた餅になってしまいます。20Gbpsという通信速度の実現は、ミリ波が普及した後の2023年以降と言われています。このため、20Gbpsという通信速度を想定したビジネスモデルを実際に運用できるのは2023年以降になってしまいます。

このように、5Gのフルスペックが実現されていない現時点において着目すべきは、5Gのフルスペックを実現できる要素技術を確立することにあると考えられます。言い換えると、5Gのフルスペックを実現する要素技術を確立するところに最大のビジネスチャンスがあると考えられます。

5Gを実現するための最も重要な要素技術は、MEC (Mobile Edge Computing)と、ネットワークスライシングだと考えられます。これらは、これまでの携帯電話ネットワークとはサービスのアーキテクチャが異なる大きな要素技術になるはずだからです。

今回は、これらのうち、MECに着目したいと思います。

5G規格で着目すべきMECとは

MECは、5Gの超低遅延を実現するためのエッジコンピューティングです。MECは、端末の近くにサーバーを設置することにより超低遅延を実現しようとするものです。例えば、従来は主として電波を中継するために存在した基地局にサーバーや高性能PCを設置します。これにより、端末とパブリッククラウドとの間でデータの送受信を行う必要がなくなり、端末の近くに設置されたサーバーと端末との間でデータの送受信をすればよくなります。従って、超低遅延を実現し得ます。

クライアントサーバーシステムでは、主としてサーバーでデータ処理させる潮流と、主としてクライアントでデータ処理させる潮流とが繰り返されてきました。かつて通信スピードが遅い時代においては、重いデータ処理をサーバーで行うシンクライアントが流行りました。端末の性能が飛躍的に向上してきた現在においては、端末にデータ処理させるのが主流となっています。

MECが進むと、再び、データ処理の主体が基地局側のサーバーや高性能PCになることも考えられます。

また、視覚や聴覚等のウェアラブル化が進むにつれて、より高度なデータ処理をリアルタイムに行う必要が生じます。求められるデータ処理の高度化及び高速化が高まることからも、データ処理の主体が基地局側のGPU付きなどの高性能なサーバーや高性能PCになる可能性が高いと考えられます。

このようにMEC等によりシンクライアント化が急速に進行すると、現在普及しつつある高性能かつ高機能な端末が必ずしも必要とはいえない時代が到来するかもしれません。そうすると、端末は、高性能サーバーや高性能PCへのアクセスするための機器にすぎなくなるかもしれません。

MECを利用したビジネスモデルにはどんなものがあるか

このように、5Gの普及と共にMECが進められることにより、端末等への要求が一変する可能性もあります。MECが進むことで、新たなビジネスチャンスが生じ得ると考えられます。

MECが進むと、MECによるデータ処理の主体が基地局の高性能なサーバーや高性能PCになります。このため、ハードウェア的にも端末にそれほど高い性能は求められなくなるでしょうし、高度な処理を行うソフトウェアも不要となる可能性があります。

例えばsplashtopというソフトウェアが、所有するパソコンにアクセスするためのものだったが、MEC上にGPU付きの高性能なPCを用意してそこにアクセスするためのツールになりうる可能性があります。今はパソコンを所有しない人も多くなっているので、そこは一つのビジネスになるのではないでしょうか。例えばアニメーション制作など、高性能PCの環境を自宅などの実際の作業場所では所有しなくても、MEC上にあり、かつ、5Gのような低遅延な環境などがあれば、どこにいても使えるようになります。実際、エヴァンゲリオンの制作会社、カラーさんとは、5Gにおけるエッジコンピューティングの実証実験も進んでいます。

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