【PwC財団】人間拡張技術支援で農業と福祉の連携。農業関係者、遠隔就労者、関係法人全てに利益をもたらす仕組みづくりへ
テクノロジーで未来を創る専門財団、PwC財団(東京都千代田区:安井正樹代表理事)は6月3日、都内でメディア発表会を行いました。2020年度に実施された助成事業「人間拡張技術を活用した農福連携」の成功を受け、「医療」や「環境」などあらゆる社会課題解決のために事業を本格展開していきます。
同財団が2020年11月から実施しているのは農業と福祉の連携です。「人間拡張技術の活用により、障がい者の身体的制限・高齢者の年齢に伴い発症する制限を 補綴・解消し、誰もが自己実現が可能な社会を創造すること」を目的とし、「1.Telexistenceのような、遠隔地での作業を可能にするような存在を拡張する技術」、「2.外骨格・義手義足のように、身体機能を補強・補綴するような身体を拡張する技術」、「3.視覚や聴覚などの感覚を技術で強化したり、皮膚感覚などに置き換えたりするような感覚を拡張する技術」、「4.AIを活用することによる理解・習得のプロセスなど認知を拡張する技術」を対象活動として公募。H2L株式会社(東京都港区)を助成先団体としてプロジェクトがスタートしました。
同プロジェクトは遠隔地からリアルタイムで農業に参加できるサービスを提供することで、「都市一極集中型の社会構造」、「地方の農業従事者数の減少と高齢化」、「障がい者の社会参画機会の制限と低賃金」という3つの社会課題解決を目指します。
ハード、ソフト開発とオンライン体験
まず取り組んだのは繊細な収穫作業などを実現させる農作業ロボットのアーム製作。農作物を傷つけないように、極力人間の手に近づけた仕様です。また、障がい者や高齢者でも農業に参加できるスマートフォンアプリも開発。農作業ロボットのアームをコントロールすることで、遠隔地からでも肥料の散布、農作物の収穫・運搬などを可能にします。Remote Agricultural Robot as a Service、いわゆるRaraaS(ララース)の提供です。
2021年12月にはオンライン体験会を開催しました。参加者の約20%は子どもや外出困難者、障がい者。精度についてはバナナの収穫作業成功率が100%、イチゴの収穫作業成功率が96%でした。アプリのダウンロードからインストール、講習会完了、作業開始までの平均時間は12分。社会実装に向けた具体的な数値も得ることができています。
誰もが隙間時間で遠隔農業アルバイト?
さて、PwC財団とH2L株式会社の農福連携プロジェクトは次の段階へ。自治体や事業者と調整し、現場に遠隔農業導入の働きかけを行います。また、実際にサービスをリリースする際は就労者に謝礼やポイントを配布する構想も。これにより、農業の人手不足解消だけでなく、障がい者や高齢者らも遠隔地で農業体験することが可能になります。都市部のユーザーらは、隙間時間にスマートフォンで気軽な遠隔農業バイトができるかも知れません。
遠隔農業による地方農業活性化。まさに農業関係者、遠隔就労者、関係法人ら全てに利益が出る新しい形の形態と言えるでしょう。
4つの軸で活動を推進
農福連携プロジェクトにおける本格展開は4つを軸に加速。「産官学を巻き込んだ継続実証事業及び農福連携×産業DXエコシステム形成事業」、「健常者も含めた遠隔農業サービスパッケージ化による地方農業の担い手不足解消事業」、「遠隔操作ロボットによる高重量農作物の省人化技術実証事業」、「2020年度助成事業の成果、及び現時点のToC等の知見の社会還元事業」です。
安井代表理事は「財団というフォーマットは投資ではなくグラント(競争的資金)。社会課題解決、インパクト増大に不可欠な仕組みではないか」と話しました。
PwC財団は従来の財団と違い、「研究所レベルから社会実装段階にある狭間のテクノロジーに注目」し、「自らが課題設定」を行い、「プログラムオフィサーを任命し専門知識やノウハウを提供することで伴走していく」という特徴があります。農福連携に限らず、様々な社会課題解決に向けた活動をしていくPwC財団の本格展開に注目が集まります。