2022.2.16

【坂本史郎 e-Janネットワークス】“失敗”から生まれたコミュニケーション術

StoryNews編集部

坂本 史郎 e-Janネットワークス株式会社 代表取締役

e-Janネットワークス株式会社 代表取締役 坂本史郎

課題解決キーワード:「弾み車の概念」(ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則より)

新型コロナウイルス感染拡大を受けて、組織の在り方が問われている。社員同士のコミュニケーションも制限される現在。マネジメントと社員の意思疎通は、多くの企業にとって課題となっているだろう。

独自の組織論やコミュニケーション術で業績を伸ばしているのが株式会社e-Janネットワークスだ。「働きがいのある会社」ランキングで2年連続ベストカンパニー選出。2021年には第1回「TOKYOテレワークアワード」推進賞を受賞している。坂本史郎代表取締役が歩んできた「トライ&エラー人生」、そして「理想的な組織から健全なビジネスが生まれる」という理念を紐解く。

東レからIT企業の設立へ

新素材の開発事業を担当

坂本は大学時代、機械工学を学んだ。同級生の進路の多くは、重工業やカーメーカーなど。一方、坂本には「他人と違った仕事をして、第一人者になりたい」という想いがあった。選んだのは化学繊維メーカー「東レ」だ。既成概念に囚われない、自由な発想はここから始まっている。

「父は外交官。幼少期からマニラやジュネーブ、イギリスなどを転々とした。当時は珍しかった帰国子女。おおよそ3年に1度、生活環境が大きく変わる。このような体験があったために、常に変化を求めるようになったのだと思う」(坂本)

東レで主に携わったのは新素材「ケブラー」。アメリカとの合弁事業として高強度、高耐熱性を持つ紡織繊維の開発に没頭した。理系出身で英語が話せて、常に変化を求めていた坂本は、うってつけの人材だったのかもしれない。

Eメール黎明期

1980年代半ばの当時、。日本人のビジネスのコミュニケーションは訪問、電話、FAXが主流だった。Eメールを使うひとは殆どいなかった。そんなEメール黎明期から坂本はアメリカとEメールでコンタクトをとっていた。

「自分がいた部署はアメリカとのやり取りが多い。半日の時差がある中、書面で上司の許可をもらって郵送するような従来のコミュニケーションでは効率が悪い。CCに上司を入れたスピーディーなコミュニケーションがEメールだった。当時からアメリカでは外出先でもコミュニケーションが取れるモバイルワーカーも少なくなかった。日本もこのようなビジネスの進め方をしなければならないと感じた」(坂本)

支援制度で起業

その後の坂本は紆余曲折しながら、キャリアを積む。第1期生としてMBA留学。しかし、帰国後に配属されたのは工場だった。工場勤務を経験させたい人事部と、海外キャリアをいかしたい坂本の想いが食い違う。企業の判断に不満を持ち、退職も考えた。その時、父に言われたのは「会社が自分に投資してくれた分を返さないのは、アンフェアだ」という言葉だった。一転、奮起した坂本は工場の稼働率に注目。ケブラーの新たな用途を開発することで、稼働率向上に成功した。

「工場の中でも新製品の開発ができることを学んだ。ただ、ふと思ったのは、“素材”という商品は事業が形になるまで、長い時間を要する。自分の寿命はそれよりも短い。自分の目で変化が見届けられるスピード感のあるビジネスは、やはりITだった」(坂本)

1999年からiモードサービスが開始されて、携帯電話でメールの送受信やインターネット閲覧が可能となった。坂本はITコミュニケーションのプロジェクトに着手。東レのベンチャー支援制度第1号として、2000年にIT企業を設立させた。

自由さゆえの失敗

始業も終業もない

社内起業後、独立を果たした坂本。電子メールをどこでも読み書きできる「メールポインター」を展開する。まず始めたのは「旧態依然の組織を壊すこと」だった。従来の制度を無くし、始業や終業がない自由なルールを制定。インドのパートナー企業と提携し、順風満帆なスタートを切ったように見えた。

ところが、斬新で自由過ぎる企業に従業員は付いて来なかった。2年半でメールポインターはサービスを断念。資金難からアルバイトのような受託ビジネスをして凌いだ。

ポジティブな「朝メール」、ネガティブな「夜メール」

2004年、ついに資金繰りが困難となる。坂本がとった行動は「内観」。いわゆる自己観察に1週間を費やした。

「“自分は何をしてもらったのか”、“何を返せたのか”、“どんな迷惑をかけたのか”。など日常を振り返りながら考える良い機会だった。特に朝、清々しい気持ちになると自分に気付くことができた」(坂本)

いまの自分は、“周囲に支えられている”という真理に気付いた坂本は社員に対して「朝メール」をスタートさせる。毎朝4時台に起床し、社員とコミュニケーションを図ることを日課にした。

「メーリングリストでコミュニケーションを図ることは実践していたが、夜のメールは文句などのネガティブなやり取りが多く見られた。心が無垢な朝こそ、コミュニケーションを取るべきだと思った」(坂本)

社長が“見てくれている”ということ

モチベーションの源泉は?

坂本がコミュニケーションで常に心がけているのは「社長がしっかり見ていることを社員に感じてもらう」ということだ。朝メールには具体的に「誰がどんなことをして、自分はどのように感じたか」といった内容が綴られている。

「小学生の頃、先生の赤ペンでメッセージが入っていると嬉しかった。しっかり自分を見てもらっていると感じられるのが、モチベーションの源泉だと思う」(坂本)

コミュニケーションを促進させる「CrossCom」

e-Janネットワークスが開発した「CrossCom(クロスコム)」という社内コミュニケーションツールは、朝メールを基にしている。日報提出機能をベースとし、コメントやスタンプといったコミュニケーションを促進する機能を搭載。業務報告や社内交流に活用できる。

社員に「社長が見てくれている」ことを感じてもらいながら、自発的なコミュニケーションを習慣化させた。

リモートアクセスの先駆け「CACHATTO」

コロナ禍で再度注目されているのが、リモートアクセスの先駆け「CACHATTO(カチャット)」だ。テレワークが浸透する以前から発売されており、1,500社75万人のユーザーが利用している(2021年12月時点)。

マルチデバイス対応でデータを端末に残さずに業務を進めることができる。CACHATTOはすでに2002年に前身となるサービスがリリースされていた。それが「メールポインター」である。

社員が幸せに働いているか?

「トライ&エラーの人生」と坂本はこれまでのキャリアを振り返る。失敗から自分を見つめ直し、学び、一つひとつを実践してきた。そして、コロナ禍という新しい時代にもまた、様々な気付きを得ている。

「コミュニケーションに求められるスピードは多様であるべきだ。リアルタイムでやり取りするものもあれば、1日単位でできれば良いものもある。全てを即レスしなければいけないというプレッシャーを与えてしまうと、社員のロイヤリティ低下につながる」(坂本)

また、坂本は「社内の雑談」についても触れる。

「社内でする雑談に必要性はない。しかし、雑談は社員にとって大事で、これを疎かにしてはいけない」(坂本)

コロナ禍の現在は、リアルな場でのコミュニケーションは難しいだろう。e-Janネットワークスは週に1度、役員を含む全社員から抽選で選ばれた 4名のグループで、オンラインで雑談する場を設けている。社員が幸せを感じながら働けているかどうかを社長は“見ている”。

e-Janネットワークスでは「理想的な組織から健全なビジネスが生まれる」という組織論が実践されている。

第2回に続く

【坂本史郎 プロフィール】

e-Janネットワークス株式会社 代表取締役

1986年早稲田大学 理工学部卒。東レ株式会社に入社後、バージニア大学 ダーデン校でMBAを取得し、2000年に株式会社いい・ジャンネット設立。現社名のe-Janネットワークス株式会社の前身となった。リモートデスクトップサービスなど、テレワーク導入のためのSaaSビジネスを展開し、主力商品「CACHATTO(カチャット)」は1,500社75万人のユーザーを誇る。真の理想的な働き方と組織としての理想形を追い求め、10年以上前から、毎朝全社員の日報へのコメント記入を日課にしている。コロナ禍において激減したコミュニケーションを増やすために、グループ雑談やワーケーション制度の導入等様々な施策を取り入れ、組織作りに欠かせない「会話・対話の生まれる場」づくりにも積極的に取組んでいる。

【坂本史郎のStoryを作った本】

『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』 著者:ジム・コリンズ 出版社:日経BP

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