2023.5.23

「透明書店」とは?freeeが自らスモールビジネスを経営する実験

StoryNews編集部

透明書店株式会社共同創業者 岡田悠 岩見俊介

freee株式会社 ブランドマネージャー 透明書店株式会社共同創業者 岡田悠
freee株式会社 ブランドプロデューサー 透明書店株式会社共同創業者 岩見俊介
freee株式会社 AIプロダクトマネージャー 木佐森慶一

クラウド会計ソフトを提供するfreeeがユニークな試みを始めた。4月21日に台東区蔵前にオープンしたのが「透明書店」。売上データ、在庫のデータなど全てを透明化して公開する本屋につけられた名前だ。

都営地下鉄大江戸線蔵前駅から徒歩2分の立地でスタートした書店の店舗面積は71.55㎡。freeeが100%出資する子会社、透明書店株式会社が運営する。コンセプトは「スモールビジネスに携わる人が、ちょっとした刺激をもらえるオープン(透明)な本屋」。

陳列されている本は約3,000冊で、そのうち2,000冊はスモールビジネス関連の書籍のほか、ビジネス、フィクション、エッセイ、漫画、絵本など。また、残りの1,000冊は小規模出版社や個人らのリトルプレス(自主制作で流通までを手掛けた少部数発行の出版物)となっている。

freeeが挑むアナログなビジネス

freee株式会社 ブランドマネージャー 透明書店株式会社共同創業者 岡田悠氏

なぜ、freeeが書店をオープンさせたのか?共同創業者の一人である岡田悠氏は、「(メンバーに)共通していたのは本好きなこと」と語る。

freeeは、「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げる。これまでも出版レーベル「freee出版」を運営し、スモールビジネスに役立つ情報や知見について、出版物を通じて情報発信をするなどしてきた。

これまで、書店の減少が世界的に危惧されてきたが、日本国内でも過去5年間の独立系書店出店数は増加し続けている。米国では、書店数が20年7月の1,689から22年7月には2,561へと増えた。(アメリカ書店協会)米国以外も、英国など世界中で同様の動きがある。「書店は世界中で、独自の選書やイベントを展開するなどの工夫で固定費を押さえながら、収益を生んでいる」「書店こそ『スモールビジネスを、世界の主役に。』を体現すること」(岡田氏)と考えたという。

岡田氏は「freeeは、単なる会計ソフトではなく人事労務、販売管理、経営分析などの統合型プロダクトでスモールビジネスを支えたい。そのためにはスモールビジネスの経営全体を自ら体験し、ビジネスに関わる人の感情も含めて理解しプロダクトに反映させていく」とし「透明書店は実験の場、そこで得た知見は、透明性をもって発信していく」と話す。

約10年前、まだ30名規模だったfreeeに入社した岡田氏は、人事労務を担当した。書類に埋もれながら、労務の仕事の煩雑さに辟易した体験が、労務管理ソフト「​f​r​e​ee人事労務」を自ら開発したきっかけだという。

「透明書店」も、岡田氏自らが公証役場に足を運び登記し設立した。その姿勢は常に体当たりで、身をもってスモールビジネスを体験するという想いにあふれる。書店のビジネスについては、「freeeはそもそも在庫を持たないIT企業。一方、書店は少量多品種で在庫管理が難しいビジネス。また、紙を扱うアナログな仕事が多い。そこにテクノロジーを介在させる価値があるのではと考えた」(岡田氏)という。

書店のアナログな仕事のひとつに、「スリップ」と呼ぶ紙での本の在庫管理がある。最近はこのスリップも入れない本が増えてきたが、「自分たちでスリップを紙で作って全ての本にひとつひとつ入れてみた」、「受発注にもあえてFAXを使ってみた」(岡田氏)

書店の仕事はいまだに紙、FAXといったアナログ業務が多くを占める。透明書店では、現在は「スリップ」を廃止し、全てバーコードによる在庫管理に移行した。こうしたデジタル化の余地が大きい書店のリアルな経営を体験し、知見を蓄積するのがfreeeのねらいとするところだ。

ChatGPTでAI接客

freee株式会社 AIプロダクトマネージャー 木佐森慶一氏

店内に入ると目に付くのが店舗のアイコン「くらげ」。freeeのブランドプロデューサーで透明書店の共同創業者の岩見俊介氏は「くらげをアイコンとしたのは“透明であること”、“成長の過程で変化する”、“神経科学の実験に使われる”がプロジェクトとの親和性と高い」と考えたからだという。

「くらげ」はChatGPTのAPIをベースとし、透明書店の在庫データなどを学習させた独自AI技術。「開発に要したのは約1~2か月」とfreeeのAIプロダクトマネージャーで、自身も企業経営の経験を持つ木佐森慶一氏

ディスプレイ上で対話型の接客をこなし、30分毎の売上データと連動して経営状況を可視化するなどの機能を実現させている。「今売れている本は?」、「なぜその本が売れているの?」と言った質問に回答する。

通常ChatGPTに「おすすめの本」などの質問をぶつけると、実際に存在しないような本の名前を答えることがある。透明書店では、「在庫情報とAIを結び付けているために、そのようなことが起こらない」(木佐森氏)

今後は同店の経営データを基に「売り上げを上げるためにどうすればよいか?」、「次はどんな本を仕入れたらよいか?」などに答えられるような、経営の相談相手となる実験もスタートする。

「店舗の副店長としての役割が果たせるような開発を目指している。スモールビジネスを始める人にとって、声や言葉で操作や相談ができればITの知識がなくてもスムーズにSaaSを導入することが可能になる。テクノロジーの実験場として情報を蓄積させるだけでなく、発信していくことも重要。“スモールビジネスはfreeeがあれば安心”と思われるような拠点になれば」(木佐森氏)

freeeと人工知能の関係性については「創業当初から『人工知能CFO』を実現させたいという想いがあった」(木佐森氏)という。

木佐森慶一氏は「漠然とした会話から経営を掘り下げる体験が作れないか」とその可能性について期待を語る。

透明書店はfreeeの既存サービスと未発表サービス、ChatGPTを活用したスモールビジネスの「テクロノジーの実験場」だ。デジタル化の余地が大きい書店経営に及ぼす変化の過程も情報発信するという。

「蔵前はスモールビジネスが多い地域、情報交換をしながらコラボしたい」(岡田氏)と期待を語った。今後、多品種で在庫型のスモールビジネス向けた統合型プロダクトの実現やAIなどのテクノロジーを反映した製品開発をめざすという。

【透明書店について】

​​​​​所在地:東京都台東区寿3-13-14(大江戸線「蔵前」駅A5出口から徒歩2分)

【岡田悠のプロフィール】

freee株式会社 ブランドマネージャー 透明書店株式会社共同創業者
1988年生まれ。一橋大学商学部卒業後、投資銀行、狩猟業を経て2014年にfreee入社。マーケターとして法人向けマーケティングの立ち上げ、プロダクトマネージャーとして「freee人事労務」などの新規プロダクト立ち上げに携わる。現在はブランドマネージャーとして、プロダクトとブランドの融合を目指している

【岩見俊介のプロフィール】

freee株式会社 ブランドプロデューサー 透明書店株式会社共同創業者
1989年生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、広告会社iPLANETでイベントを中心にしたコミュニケーションデザイン業務を経て、アパレル事業を展開するストライプインターナショナルへ。2022年freee入社。freee brand studioにて新規ブランドアクションを担当。freee出版責任者。

【木佐森慶一のプロフィール】

freee株式会社 AIプロダクトマネージャー
1986年生まれ、東京大学で博士取得後、理研を経てNECに入社。NECと産総研のオープンイノベーションの枠組みで機械学習のトップ国際会議AISTATS等で論文発表。その技術の事業化のためにBIRD INITIATIVEを設立し、事業責任者としてリード。2022年にfreee入社、AIプロダクトマネージャーとして、AI技術で顧客価値を最速で作ることに挑戦中。

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