「パン食い競走」初の公式大会開催 「あんぱん」の木村屋總本店社長 木村光伯と為末大が熱戦
「パン食い競走」の第一回公式大会が、4月6日、東京都日本橋の室町コレド仲通りで開催された。全長30mのコースで、パンをくわえる場所は15m地点の1箇所。そのパンをくわえたままゴールし、完走後はパンを完食するのが公式ルールだ。
主催したのは、あんぱん製造メーカーの木村屋總本店と400mハードル日本記録保持者 為末大。当日は、小学生の子どもからスポーツ経験者まで老若男女問わず約200人がレースに参加。レースには、木村屋のあんぱん200個が用いられた。
木村屋總本店と為末大がタッグ
“みんなが笑えるスポーツがあってもいいんじゃないか”。もっと気軽にスポーツを楽しんでほしいという為末とパンを楽しみながら食べて欲しいという木村屋總本店代表取締役社長の木村光伯。プライベートでは友人関係でもある。両者の想いが重なり、今回の第一回パン食い競走公式大会開催に至った。
当日の開会式では、為末と木村が、スポーツ”パン”シップを宣言した。
<スポーツ“パン”シップ宣言>
1、全てのプレイヤーはパンの元に平等である
2、パンを疑ってはならない
3、一度くわえたパンは食べ切らなければならない
4、叩き練られるほど、パンも人も味が出る
5、最も強いのはパンを分け与えるものである
負けても悔しくない“みんなが笑える”スポーツ
開会式後の試走式では、為末と木村がタイムを競った。最初にパン食い地点に辿りついたのは為末。しかし、パン食い中に木村が為末を追い抜きゴールまでくわえたパンを落とすことなく走りぬけた。
木村のパン食いテクニックの前に敗れた為末は、レース後のインタビューで以下のように語った。
――残念ながら、今回は勝利ならずでした。レースを終えての気持ちは?
為末:脚の速さはパン食い競走には、関係ないということですね(笑)。コースの設計を木村さんの方でやっていただいたので、相当練習されたんじゃないかと(笑)。
――パン食い競走大会に込めた想いは?
為末:笑えるスポーツって大事だなと思っていて。どうしてもスポーツってすごく上手くなる人と悔しい人が出てきてしまう。こんな風にみんなが笑えるスポーツをやりたかったんです。
記録タイム7秒61で見事に勝利をおさめた木村。勝因は何だったのか。
――歴史的勝利、おめでとうございます。レースを終えられての感想は?
木村:スピードよりもテクニック重視のプレースタイルでいきました。為末さんの方がスタートは速いと思っていたので、後半のパンをくわえることに集中して練習を積んでいました。パンの揺れを見てくわえるタイミングにテクニックを必要とするので、練習が功を奏しました。
――暫定世界記録保持者として、今後のパン食い競走への意気込みは?
木村:モチベーションを維持していくのが課題にはなると思いますが、コンディションを整えながら次の戦いに備えたいと思います(笑)。(※世界記録保持はインタビュー実施時点。その後、参加者により記録は更新された)
明治7年に誕生したあんぱん
今回の第一回大会は、4月4日「あんぱんの日」にちなんでの開催だ。明治8年4月4日、木村屋の初代木村安兵衛がお花見をする天皇両陛下にあんぱんを献上したそうだ。その前年の明治7年、安兵衛の考案であんぱんは誕生した。これが「あんぱん」の元祖である。創業当時、日本においてパンは普及しておらずどうすればパンが食べられるようになるか考えた結果、洋のパンに和のあんが融合した和洋折衷のあんぱんが生まれたという。
老舗は、“古き”にとどまらず“進歩”を求める
現代表、木村光伯は、2006年に28歳で木村屋總本店の七代目に就任した。就任当時、4期連続赤字を出す経営危機に陥っていたが、木村の経営手腕で見事に黒字回復を遂げる。2019年に創業150周年を迎えるにあたり、木村の指揮のもと企業理念を刷新。木村は “歴史を尊重し感謝し、深く研鑽努力を重ねていくことで進歩が生まれる”と老舗に新しい風を起こす。
木村が、代表就任時より大事にしている言葉「覚悟と心構え。自分で軸を持て」がある(日本製粉 澤田浩会長の言葉)。今回のパン食い競走の開催にも木村のブレることのない“軸”が反映されている。
「パン食い競走」で街おこし
為末と木村による試走式の後は、一般参加者によるレースが計6レース行われた。見事に、第一回パン食い競走大会で優勝をおさめ暫定世界記録保持者となったのは、岡部航一さん(13歳)。岡部さんには「パン製トロフィー」が贈られた。
必死でパンをくわえようとする参加者に、沿道からよせられる多くの声援。レース後には、皆がパンを笑顔で頬張る。「食で感動を繋ぐ」という木村屋の経営理念と「スポーツとは身体と環境の間で遊ぶこと」と定義する為末の信念が凝縮された第一回パン食い競走公式大会だった。
今回設計した「パン食い競走」のためのツールやスキームを各地に提供し、地元のパン屋が主体となって、日本各地で大会を行っていけるようサポートしたいと語る木村と為末。古くは運動会の種目として人気を誇った「パン食い競走」が、新たな「街おこしのスポーツ」として生まれ変わろうとしている。
なお、本大会レース参加者と同じ数量の200個のパンが、開催地の中央区内のこども食堂に寄付された。