2022.5.27

【ブルーイノベーション】海と空。ドローンビジネスで未知の領域に価値を生み出す

StoryNews編集部

ブルーイノベーション株式会社 代表取締役社長 熊田貴之

空撮のみならずレースや運搬など、あらゆる用途で活用されるようになったドローン。ドローンの発展は「空の産業革命」に大きな影響を与えています。ドローンが注目され出したのはごく最近。しかし、ブルーイノベーション株式会社の熊田貴之代表取締役社長は、今より15年ほど前からその可能性に着目していました。

ロボット・システムプラットフォーマーとして、2030年のビジョンである「自律分散型社会」の実現を目指す同社。人間とロボットをつなぐブルーアースプラットフォーム(BEP)とは。海と空の“青”に魅せられたストーリーを追います。

災害対策に飛行ロボット

海岸侵食を研究

日本大学の海洋建築工学科に進学した熊田氏。恩師から勧められた研究テーマ「沿岸域に生息するマングローブ」がターニングポイントでした。

「タイとベトナムで研究の調査をした時。洪水後に家が流されていた。豆腐のように柔らかい地盤に家が建っている。だから、一度洪水が起きると大災害になってしまう(熊田氏)

大惨事を目の当たりにした熊田氏は以後、河川や海岸における侵食のメカニズムに興味を持ち、災害対策のための研究に没頭します。

研究の上で必要なのは「空撮」でした。当時はセスナ機などを使い、上空から有人で撮影するのが主流。しかし、熊田氏が研究のために最も必要だったのは、災害直後の写真です。当然、災害が発生した直後の海岸を収めるような写真撮影は難しく、その方法を模索します。そこで出会ったのがドローン。当時は飛行ロボットと呼ばれていました。

ドローンの始まり

飛行ロボットの歴史はさらに昔に遡ります。1985年8月、ジャンボジェット機が群馬県の御巣鷹山へ墜落しました。この事故を受けて人の手を介さなくても自動で飛行できるよう、ラジコン機で実験を行ったのが始まりです。つまり、ドローンの前身は有人機のための実験機でした。

ともあれ熊田氏は「災害直後でも飛行が可能」、「近くまで寄って撮影できる」、「精度の高い動画が撮れる」といったメリットを持つ飛行ロボットに可能性を見出しました。在学中に事業をスタート。海岸侵食対策の研究の傍ら、飛行ロボットで撮影した写真を解析するビジネスに着手します。

ブルーアースプラットフォーム(BEP)

ITと自動車業界のハーフ

大学院を修了後、6年間はサラリーマンを経験。環境のコンサルタント業務に従事します。1999年に有限会社アイコムネット設立。防災コンサルティング事業を2001年より開始しました。2008年に、ドローンの空撮サービスなどをスタート。2013年に社名をブルーイノベーションへ変更しました。

「当時、環境問題を解決するグリーンイノベーションという言葉が流行していた。私たちは海や空といった、未知なる領域に価値を創造していこうというコンセプトで、社名をブルーイノベーションとした」(熊田氏)

熊田氏はブルーイノベーションが携わるドローン業界を「IT業界と自動車業界のハーフのような存在」と表現します。同社はドローンのハードメーカーと混同されがちですが、あくまで提供しているのはドローンやロボットの制御や運行管理などのソフトウェア。早くからOSやプラットフォームの重要性を察知し、サービスを展開しています。

そのソフトウェアを活用し、ドローンやロボットというハードウェアを動かすこと。さらに、自動車社会のように安全な運行を可能にするルールや、運転者の技術向上にも寄与しているのが同社最大の特長と言えるでしょう。

「動かす」「集める」「管理する」

同社のベースとなっている技術が「ブルーアースプラットフォーム(BEP)」と呼ばれる独自のデバイス統合プラットフォームです。複数のドローン、ロボット、各種デバイスを遠隔かつ目視外でコントロールすることが可能。1つのコマンドで様々なミッションをこなすことができます。

BEPは「最適経路計算」や「経路作成」、「設備連携」、「自己位置推定」、「障害物回避」などの機能によりロボットなどのハードを動かします。さらに、「センサー連携」や「センサー制御」、「対象物検知」などでハードに搭載されたカメラやセンサーによりデータを集めます。収集したデータは「リアルタイムモニタリング」や「ユーザー管理」、「地図情報管理」など“管理”のフェーズへ移行。「動かす」、「集める」、「管理する」という3つのフェーズで業務の効率化や自動化を実現させる仕組みとなっています。

4つの軸で展開

BEPによるソリューションは4つの軸で展開しています。石油化学プラントや製鉄所などにおける「点検」。物流ドローンの自動飛行から離発着場の安全確認、ロボットなどによる倉庫内の作業自動化を目指す「物流」。自動清掃、社内セキュリティ向上を見込む「オフィス」。そして、ドローン操縦の基礎や法律を学び、パイロットを育成する「教育」です。

「教育の視点はまさに、自動車業界から着想を得たもの。いわゆる、自動車教習所のようなものを作ることで安全かつ適切なインフラを構築したいと考えた」(熊田氏)

社会実装に必要な規格化と育成

日本の法整備は進んでいる

では、日本と世界のドローン事情はどのようになっているのでしょうか。やはり、アメリカや中国が活発に展開しており、それに伴った法整備も進んでいる印象があります。ところが、実態はそうではありません。

「ハード面では中国やイスラエル、トルコ、フランスあたりが先進国。テクノロジーに関して言えば日本は2周遅れているのではないか。しかし、航空法改正や社会インフラの整備は非常に早く、世界でもトップクラス」(熊田氏)

2015年、首相官邸屋上でドローンが発見されました。これを受け、翌年にはドローン規制法が施行されるなど、スピーディーな法整備が進められています。

ドローン認定資格発行「JUIDA」

熊田氏は2014年、つまり航空法が改正される前にドローンの安全かつ積極的な利活用の推進や、研究開発、安全ガイドライン策定、人材育成、環境整備などを目的としたドローンコンソーシアム「一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)」の設立に関わりました。試験飛行場の開設や日本初のドローン認定資格を発行するなど、精力的な活動を展開。会員数は2万人以上という、世界でも類を見ない規模となっています。

「JUIDAにはドローンパイロットを養成する認定スクールが全国270校(2022年3月時点)あり、パイロットの事故率も低い。ドローン教育におけるISO規格も、世界に先駆けて発行している」(熊田氏)

パイロットプラットフォーム「SORAPASS」

もう一つ立ち上げたのがドローン専用飛行支援地図サービス「SORAPASS」です。これは会員数約5万人以上を誇るドローンパイロットのプラットフォーム。ドローンのレンタルや保険、飛行許可申請、飛行可能・禁止エリアの情報提供など幅広いサポートを展開しています。

「JUIDA」や「SORAPASS」の設立など、ソフトウェアの提供に留まらない活動までがブ

ルーイノベーションの事業領域です。

スーパーシティ構想の実現に向けて

自律分散型社会の実現

さて、内閣府はAIやビッグデータなどの先端技術を活用し、2030年頃の実現を目指す「スーパーシティ構想」を発表しています。ブルーイノベーションはこのビジョンに対し「自律分散型社会へのパラダイムシフト」を予見。大きな変革に対する社会貢献の準備が、着々と進んでいます。

「空のインフラをBEPで繋いでいく。ロボット社会になったとしても、やはり考えるべきは人。人とロボットが協調し、つながる社会を実現させたい」(熊田氏)

地上から高度150mがドローンの主戦場と言われています。しかしながら、この空間は道路、航路などと違って整備されているわけではありません。同社は「完全な自律空間」の実現に向けて、空のインフラの在り方を模索しています。

「時刻によって最適な飛行経路がある。当然、天候や環境という不確定要素が存在する。それらを時々刻々と感知して回避する飛行経路を構築しなければならない。つまり、次世代の

空のインフラは動的な空路であるべきと考えている」(熊田氏)

2025年に開催される関西・大阪万博は「空飛ぶクルマ」や「物流ドローン」に大きな期待が寄せられており、いわばドローンビジネスの前哨戦とも言えるでしょう。BEPを活用したドローンポート(ドローンなどの離着陸場)など、ブルーイノベーションの技術が世界から注目される可能性もあります。2025年、2030年の青写真。期待せずにはいられません。

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