2022.2.21

スタートアップの資金調達。キャピタリスト坂祐太郎が読む2022年新トレンド

StoryNews編集部

坂 祐太郎 ジャフコ グループ株式会社

ジャフコ グループ株式会社 ビジネスディベロップ部門 プリンシパル 坂祐太郎

新型コロナウイルスの影響により、ライフスタイルやワークスタイルが劇的に変化し「ウィズコロナ」がスタンダードとなった2022年。スタートアップ市場にとっては、大きなチャンスの年と言える。

「昨今、コロナ禍に伴う改革やSDGsによる環境対策、ウェルビーイングなどが浸透してきた。世の中に課題が生まれ、ユーザーのニーズが変わることでスタートアップ市場は活発化する」と話すのは、国内最大手ベンチャーキャピタル「ジャフコ グループ株式会社」の坂祐太郎氏だ。

坂氏は2017年にForbes キャピタリストランキング2位を獲得。株式会社マネーフォワードといったベンチャー企業の成長をサポートしてきた。資金調達額が増加し、積極的な動きを見せるスタートアップ市場。キャピタリストは2022年をどう読むのか。

スタートアップは文化祭の前夜祭

法学部からジャフコへ入社

坂氏は大学時代、法学部に所属していた。「何となく弁護士を目指していたが、それが本当にやりたい仕事なのか迷っていた」と語る。そんな折、インターンシップで営業支援のスタートアップ企業を訪れる。そこで出会ったのがジャフコだった。

「ジャフコに出会って、初めてベンチャーキャピタルという仕事を知った。スタートアップの事業には、文化祭の前夜祭に似た高揚感がある。これを仕事にできたら面白いと思った」(坂氏)

世の中に必要とされる新事業の創造にコミットすることで、新しい時代を切り開くベンチャーキャピタル。その仕事に魅力を感じ、2012年にジャフコに入社する。

新規事業はスキマ産業

ジャフコに入社後、数々のSaaSベンチャー企業を見出してきた坂氏。特筆すべきポートフォリオに、株式会社WACULが挙げられる。同社はテクノロジーを駆使してセールスやマーケティングのDX実現を支援するベンチャー企業だ。

当時、同社はWebコンサルティングをメインに展開していた。坂氏はUI/UX領域に可能性を感じており、同社ホームページに掲載されていた大手企業のコーポレートサイト制作事例を見て興味を抱いた。

「なぜ、設立して間もないベンチャー企業が大手企業の案件を受注できているのか気になり会いに行った。話を聞くと、アクセス解析サービスのプラットフォームを作りたいというビジョンを持っていた」(坂氏)

坂氏は同社が描くWebコンサルティングからSaaSへの転換に共感し、接点を持ち続けた。そして、2015年、同社はジャフコより資金調達を実施。人工知能がWebサイトの改善点を提案するSaaS「AIアナリスト」は、加速度的に登録総数を伸ばし、2021年2月にはマザーズ上場を果たした。

「このサービスが伸びると思ったのは“誰の何の課題を解決するか”が明確だったから。新事業はいわゆるスキマ産業。これから大きくなるであろう社会や企業の課題をいち早く捉え、スキマに入り込むサービスを支援してゆくことが、新たな時代の流れを生み出すことにつながると思う」(坂氏)

国内スタートアップ市場の課題と変化

拡大しないエコシステム

2021年のスタートアップ市場は、2020年に比べると積極的な動きが見られた。ユニコーン企業は3社から6社へと倍増し、海外からの資金流入も増えている。

しかし、グローバルの視点で見るとユニコーン企業6社というのは寂しい数だ。資金調達における課題として、坂氏は「ファンドの小ささ」と「M&Aの少なさ」を指摘する。

「起業家の経済的メリットや出資企業の合理性が浸透していないのが要因。ファンドの規模が成長し、M&Aが活発化されない限りスタートアップ市場のエコシステムは拡大していかないのではないか」(坂氏)

整いつつあるユニコーン創出環境

一方で、個人投資家や取引所のマインドは確実に変わってきているという。例えば「赤字上場」。数年前まで赤字の企業は敬遠され、上場するのは難しい状況だった。しかし、近年は企業やマーケット、サービスのポテンシャルを重視する傾向にあり、赤字への理解度が高まっている。

また、テクノロジーによって個人と企業、投資家と起業家の距離が縮まったのも、スタートアップ市場にとってはプラス要素だ。

「思い浮かんだアイディアが実現しやすくなった。つまり、ユニコーン企業が創出されやすい土壌が整いつつあるということだ」(坂氏)

成功の秘訣と2022年のトレンド

なぜマネーフォワードは成功したのか

フィンテックのリーディングカンパニーとして知られる株式会社マネーフォワードも、坂氏が担当した企業の一つ。坂氏は同社の“巻き込み力”が成功の秘訣と語る。

「同社は日本で初めて『フィンテック』という言葉を作りだし、『フィンテック』のリーティングカンパニーとして名乗りを上げた。味方を作り、世の中のうねりを生み出す力。それらを自ら実現できる経営者が成功する」(坂氏)

特に、コロナ禍においては変化が激しい。ライフスタイルやワークスタイルが変わり、デバイスも変わる。坂氏は「その変化に課題を見つけ、対応できる組織作りが重要」と話す。

組織をマネジメントする立場には「言語化能力」が求められる。多くの企業がリモートワークを導入し、伝達できる情報量が減ってきている。そのなかで、適切にビジョンを伝えることが“巻き込み力”となり、スタートアップ成功の鍵になると見ている。

Web3.0でプラットフォームが変わる

2022年のトレンドとして坂氏が注目しているのは「Web3.0」だ。次世代インターネット概念の登場によって、プラットフォームの大きな変化を予測している。

「SaaSビジネスの流れはしばらく続くのではないか。また、ヘルスケア領域にもポテンシャルを感じる。しかし、先々ではメタバースが広がることで駅近といった概念が無くなり、空間までデジタル化された未来になる日は近いかもしれない」(坂氏)

起業家の一番近くにジャフコ

ジャフコは2022年1月現在、800億円のファンドを25人近くの専門支援チームで運用している。約4,000社に投資し、1,000社を超える企業が上場を果たしてきた。

そんなジャフコが新たに取り組んでいるのが、スタートアップ企業向けグロース支援プログラム「RAPID GROWTH PROGRAM」だ。これは、資金調達とマーケティング戦略の両軸から企業成長と企業価値最大化を目指すもの。また、ナレッジの提供として「HRコミッティ」を発足。HR戦略に携わるメンバーがディスカッションし、知見を共有している。

「ジャフコには“起業家の一番近くに”という文化が根付いており、成功と失敗から得た知見を活かして、今後は投資先支援に力を入れていく。世の中にある課題を解決するために動く人と一緒に走っていきたい」(坂氏)

資金調達というベンチャーキャピタルの枠を超えたジャフコ。その活動は確実に日本の若い企業の追い風となるだろう。

【坂 祐太郎 プロフィール】

ジャフコ グループ株式会社
ビジネスディベロップ部門 プリンシパル 
 

ビジネスディベロップ部門で投資先の成長をサポート。Forbes キャピタリストランキング 2回入賞(2022年 9位、2017年 2位)。投資先にマネーフォワード、WACULなど、HIRACファンドの運営にも関与。

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