【ラストウェルネス 脇谷正二】元ビーチバレー日本一が目指す、チーム力での“業界変革”
株式会社ラストウェルネス 代表取締役社長 脇谷正二
業界全体が「顧客単価を下げる代わりに、人員を割かないオペレーション」にシフトチェンジする中、あえて「単価を上げて会員に手厚いサポート」を提供した総合型スポーツジムが「LEALEA(レアレア)」である。運営する株式会社ラストウェルネスの脇谷正二代表取締役社長は、ビーチバレー選手として長らく第一線で活躍。2013年の東京国体で日本一になった実績を持つ。
バブル崩壊を境に健康ブームが到来。スポーツジムの市場規模は増加傾向にあった。2000年の全体売上高は1,973億円で会員数は約210万人だったが、2018年には全体売上高3,372億円を記録。会員数は330万人を超えた(※)。
※出典:経済産業省(特定サービス産業動態統計調査)
ここ30年で実に多彩な業態のスポーツジムが登場した。プールやマシンを導入した総合型、格闘技やヨガなどの専門型、24時間営業型、パーソナルトレーニングを主としたコミット型などだ。
2020年の新型コロナウイルス感染拡大で市場は大打撃を受ける。コロナ禍で特に厳しかったのは総合型のジム。効率を重視することで、会員へのフォローが手薄になった結果、退会するユーザーが増えた。休業や返金を余儀なくされる店舗も散見され、アフターコロナにおける動向に注目が集まっている。
専任担当者がいる“スクール”
「コロナ禍は、スポーツジムの在り方を見直すきっかけになった。周りの総合型スポーツジムは40から50%が退会したと聞く。しかし、当ジムはコロナ禍において退会者数を20%程度に抑えることができた。現在では既にコロナ前の会員数を超えている」(脇谷社長)
コロナ前、レアレアには、毎日に通うことが日課の利用者が多くいた。コロナ禍では外出制限がかかり、動かさなくなった体に支障も出てきたという。免疫力の低下で歩行できなくなる人もいた。「このような時こそ生活者や地域を元気にするサービスを届けなくては」と考え、サービス内容を転換。そして同ジム最大の特徴と言える「専任担当者制グループスクール」の仕組みが誕生した。利用者がジムに来ていない時間もデザインし、サポートしていくカリキュラムだ。
1人の担当者が複数人の利用者を受け持つ。ジムに来て最初に行うのは合計30分のヒアリングと座学。「日常生活はどのように過ごしているのか」、「体や健康の悩みは何なのか」などを丁寧に聞き出していく。続いて運動、休養、食事、メンタルにまつわる座学を実施し、トレーニングへ移っていく。
まさに教師と生徒のような関係である。ただマシンで体を鍛えるのではなく、専任担当者とともに利用者自身が理想的なメニューを作成。プラン通りのメニューをこなすことで成果が上がる。目的が果たせたら退会すればよい。正しい知識を得て、運動することが習慣化した利用者は退会ではなく“卒業”するのだ。
「総合型スポーツジムのほとんどは自由。プール、スタジオ、サウナといった施設を自分のタイミングで利用することができる。しかし、自由というのは、習慣化を目指す利用者にとっては難しい仕組み。『いつでも行ける』というのは『今日は行かなくてもいい』になってしまう。だからこそ、『常に見てくれている』専任担当制とした」(脇谷社長)
デジタル技術が「人」を支える
日常生活ではジムにいない時間の方が圧倒的に多い。同社はそこに注目した。健康は生活習慣を正しくコントロールすることが最も重要。ここでも「常に見てくれている」専任担当者の存在が大きい。
ジム外の時間は身体マネジメントアプリ「ON DIARY」でコミュニケーションを図る。利用者は自宅でのプログラム実施状況や体重、食事データなどを入力。それを専任担当者がプロの目線でチェックし、フィードバックしていく。これはデジタル技術を応用した“連絡帳”と言える。
その他、デジタル問診やカウンセリング機能、退会リスク予報・フォロー、離脱者フォローといった機能も搭載している。「当ジムの店舗は多くのスタッフを確保している。業務効率化を図る領域は、例えばインストラクターがやらなくて良い管理業務。人が必要な場所には人を、デジタルが必要なところにはデジタルで対応する」(脇谷社長)
退会率の改善や会員継続率向上が期待できることから、他社フィットネス事業者向けのサービスとしても展開している。
ラストウェルネスの「人」づくりの秘密
2023年7月に千葉県松戸店をオープンさせ、計7店舗展開となったラストウェルネス。従業員は70人ほどだ。チーム「ラストウェルネス」はどのように組織されているのだろうか。
「会員一人ひとりをサポートする専任担当者は、いわゆる“ライフスタイルプランナー”。ファシリテーションとコーチングを学び、利用者を成果に導く重要な役割を担ってもらう。」(脇谷社長)
ラストウェルネスは毎年10数人の新卒者を採用している。内定者を入社に導く過程で活躍しているのは、入社1年目から3年目の若手社員。同社ではメンター制度を導入し、内定者に近い年の社員が入社までをサポートする。
ライフスタイルプランナーやメンターという役割を与えられた従業員にとって、自身の責任でチャレンジできる環境ができあがるわけだ。脇谷社長は野球やバレーボールというチームスポーツに携わっており、あらゆるチームでキャプテンを任されてきた。だからこそチームづくりに対する想いはひと一倍強い。
「店舗の数字を個人の数字に落とし込んでKPIを設定する。個人が実現させたい目標、中長期ビジョンをセットし、その上で役割を与えて成長を促す。従業員のすべてが豊かになって欲しいという思いがある」(脇谷社長)
「私がラストウェルネスに入社する時、当時の支配人に言われたのが『日本一のスポーツジムをつくりたい』だった。仲間と一緒に、大きな目標に向かっていくスタンスに共感して入社を決めた。スポーツジム市場はかつて成長傾向だったが、その後、大きな飛躍はしていない。この要因は“人”だと思う。信頼できる専任担当者がいるから続けられる。行きたくなる。にもかかわらず、こういった専任担当者が生み出せていなかったため、価格や自由度を訴求するしかなかった。利用者に信頼される“人”を輩出していくことが、チームづくりのこだわりでもある」(脇谷社長)
チーム「ラストウェルネス」で業界変革
日本において、スポーツジムを利用する人は全国民の3〜4%だと言われている。そして、スポーツジムを利用するのは、ほとんどが健康な人だ。健康な人たちが退会と入会を繰り返して、3〜4%という割合で推移しているのが現状である。
チーム「ラストウェルネス」が見据える業界変革はまず、利用者の母数拡大だ。健康に対する意識が高くなく、通院するまでではないが健康とはいえない生活者。この層を狙って拡大させていくという。「スポーツジムと病院の間の存在が必要。本来、スポーツジムというのは適度な運動による“予防”が目的である。それが今の業態では果たせない」(脇谷社長)
運動が苦手な人もいる。何をすれば良いか分からず、誰に聞くこともできず、健康から遠ざかってしまう人は多いだろう。“専任担当者がいるレアレア”というのは、そのような生活者にも寄り添ったサービスではないか。
同社ではフィットネスクラブのコンサルティング、アクセラレータープログラム、フランチャイズ事業も展開。精力的なM&Aも実践しており、業界変革に向けて着実に進んでいる。
めざすは、日本一のスポーツジム
ビーチバレーで日本の頂点に立ったアスリートが、経営者となって存分にキャプテンシーを発揮している。
脇谷社長は自身が入社時に言われた「日本一のスポーツジム」を本気で目指す。2025年に売上高30億円、12店舗の展開。2030年に売上高100億円、30から50店舗の展開を目論む。
「一般的なスポーツジムの継続率というのは半年で30%、1年で10%しかいない。ところが当ジムは半年で80%、1年でも65から75%ほどが継続している。この継続率は日本でもトップレベルだと自負している。今後はスタッフの水準日本一、売上日本一を獲得したい。その先に、日本一のスポーツジムという場所があるはず」(脇谷社長)
脇谷社長が東京国体で優勝したのは2013年。オリンピック出場を目指すにはスポンサーの力が必要だった。各方面を奔走したが、結局夢は絶たれた。ラストウェルネスとして、ビーチバレーのスポンサーになることも一つの目標だそうだ。
【脇谷正二のプロフィール】
株式会社ラストウェルネス 代表取締役社長
東京都出身。小学生から野球を始めたが、中学でバレーボールに転向。高校時は海外遠征チームに選抜される。スポーツ推薦で大学に進学後、ビーチバレーの魅力に取り憑かれた。卒業後はプロ登録を行い、国内中を転戦。2013年に東京国体で優勝、2014年プロツアーランキング2位を獲得した。
第一線を退くも競技は継続。2014年2月に株式会社ラストウェルネスへ入社。翌年に店舗支配人となった。2018年に取締役へ就任し、コロナ禍の経営に携わる。2021年10月より現職。