NVIDIA仮想GPU(vGPU)ソリューションでリモートワークの生産性を上げる
エヌビディア合同会社
エンタープライズ事業本部
vGPUビジネス開発マネージャー
後藤祐一郎
リモートワークがハイブリッドワークへと進化するなかで、生産性に関する課題が浮き彫りになってきています。NVIDIAは、リモートワークの生産性を上げるための仮想GPU(以下、vGPU)ソリューションを提案しています。
vGPUソリューションによりオフィスユーザーはもちろん、これまではリモートワークが難しいとされていたプロフェッショナルユーザーの作業もリモート環境が可能になり、これからは「リモートワークに付加価値を作る時代になる」とNVIDIAのエンタープライズ事業本部 vGPUビジネス開発マネージャー後藤祐一郎氏は提言しています。
後藤氏に、現在のリモートワークと生産性の課題、これからのリモートワークについて話を伺いました。
NVIDIAのGPUは、ゲームからAIまで用途が広がる
――まず最初にNVIDIAについて教えてください。
後藤:いつも最初にお話しするのが読み方で、”エヌビディア”と読みます。創業は1993年、GPU(Graphics Processing Unit)で知られる会社です。創業者のジェンスン・フアンが現在もCEOとして率いており、従業員は2万5000人程度、2022年会計年度は前年比61%増の269億ドルを売り上げました。
現在NVIDIAはコンピューティング・プラットフォームカンパニーと名乗っており、事業領域としてはコンシューマー、エンタープライズ、データセンター、組み込み機器と幅広く展開しています。
我々が最も知られているのがコンシューマー向けのゲーミング分野で、「GeForce」というブランドのグラフィックスカードをを提供しています。この分野は発展しており、eスポーツ、クラウドゲーミングなどでもGeForceによりエキサイティングな体験が得られます。パワフルなグラフィックスを支えるテクノロジは、3Dデザイン、映像制作などエンタープライズ分野でも使われています。
グラフィックス以外でも領域が拡大しています。特にここ数年で増えているのがコンピューティングです。これまで世界の主要なスーパーコンピューターにNVIDIAのGPUは採用されてきましたが、近年はAIで要求される高速な処理にNVIDIAのハードウェアとソフトウェアが採用されています。自動運転、製造業、創薬、テレコム、気象学や地震学など様々な分野を支えています。
これに加え、2019年にはMellanoxを買収してネットワークにも拡大するなど事業領域を広げています。
このように、GPUに加えてCPU(Central Processing Unit)、DPU(Data Processing Unit)、NIC(Network Interface Card)、ネットワークスイッチ、SOC(System-on-a-chip)などハードウェアの領域を広げてきました。さらに、ハードウェアを効率よく作動させ、高いパフォーマンスを実現するためにソフトウェア開発にも力を入れています。
――NVIDIAでのお仕事やこれまでのキャリアについて教えてください。
後藤:元々はMicrosoft Windows系のインフラ技術者で、ユーザー企業、国内システムインテグレーターでクラウド、仮想化、VDI(デスクトップ仮想化)、インフラの提案や設計を行っておりました。メーカー側に移って、さまざまなお客様にご提案したいと思うようになり、2017年2月にNVIDIAに入社しました。
現在はエンタープライズ事業本部 vGPUビジネス開発マネージャーとして、NVIDIAの仮想GPUソリューションである「vGPU」を日本市場に広げるビジネス開発に従事しております。
リモートワークの生産性を阻害する課題
――新型コロナによりリモートワークが一気に進みました。一方で、リモートワークにおける生産性の低下など、課題も指摘されています。リモートワークにおける課題をどのように捉えていますか?
後藤:VDI、RDSH(Remote Desktop Session Host)に限って見ると、課題はいくつかあります。システムリソースやネットワークなどが充分に整備されておらず、リモートワーク可能なユーザーが少ない、キャパシティ不足など物理的環境が不十分である場合は、環境を用意することで解決につながるでしょう。
さらに課題として、リモートワークはできるがWeb会議や動画の再生が全体的に遅いなど「生産性の低下」、データの機密性が高いためデータを持ち出せないなどの「セキュリティの懸念」、そして高性能なワークステーションはリモートワークできず会社内で席を移動できない「固定席/移動不可」の3つがあります。
特に生産性の低下については、明白な理由があります。あまり知られていないのですが、「Windows 10」より、標準的にGPUを使うようにOSが設計されています。そのため、Web会議やEラーニング等の動画再生、Webブラウジングで見る動画や画像などのリッチ/インタラクティブコンテンツ、オフィスソフトやPDFなど、Windows 10以降は一般的な使い方でGPUを使うようになっています。
GPUといえば、”ゲームはやらないから関係ない””高い処理能力を要求する計算はやっていないから関係ない”などと思われるかもしれません。しかし、我々はGPUの恩恵を日常的に受けているのです。
一般ユーザーが使うようなアプリケーションであっても、2020年の時点でGPUを使用する時間の比率は99%以上というデータも出ています。オフィスソフト、Webブラウザ、Web会議など、日常の業務で使う生産性アプリケーションが使用するGPUの使用時間は2015年の2倍以上となっています。これは、PC環境のモニタリングを行うLakeside Softwareが集計しているもので、GPUの必要性が裏付けされたデータと言えます。
仮想化されたデスクトップ環境でのリモートワークでCPU負荷が高くなり全体的な作業が重くなる理由
――Windows 10以降はほとんどのPCにはGPUが内蔵されており、OS側もそれを使うよう設計されています。なぜリモートワークではアプリケーションが重くなるなどの現象が生じるのでしょうか。
後藤:ここでGPUとCPUの違いを簡単に説明します。中央演算処理装置とも言われるCPUは全体の逐次処理をつかさどる”コンピュータの頭脳”で、コア数は数十単位です。これに対してGPUは数千から数万のコアを持つ”グラフィックスと計算の頭脳”です。大量のコアを搭載しているからこそ、グラフィックスも計算も高速に並列処理することができます。
多くの組織でリモートワークの仕組みとして、ユーザーがリモートにあるデータセンターにアクセスして、仮想化されたデスクトップ環境(仮想デスクトップ、共有デスクトップ、仮想アプリケーション)を利用するという手法をとっています。こうすることで、集中管理/運用の効率化、電源やシステムリソース/データの統合、セキュリティ対策ができるからです。
ところが、ほとんどの場合でデータセンターの仮想環境で仮想化されているのはCPUリソースのみです。仮想環境にGPUがないため、CPUに負担がかかります。つまり、本来は得意ではないグラフィックス処理をCPUが任されてしまっているという状況です。
そのため、物理的なPCでは、内蔵GPUを活用して快適に作業できていたいのに、リモートワークが主流になり仮想化されたデスクトップ環境だとGPUが使えなくなる、CPU負荷が高くなり全体的な作業が重くなる、パフォーマンスが落ちる、という状況が生まれています。
我々がよく聞くパフォーマンスの問題としては、Web会議がカクカクする、ブラウジングがスムーズではない、オフィスソフトが重たい、動画再生がスムーズではなくeラーニングが難しいなどがあります。Web会議はカメラオフでと言われた経験は、皆さんもあるのではないでしょうか?
プロフェッショナルユーザーになるとさらに課題は深刻で、製造業、メディア・エンターテイメント、建築、ヘルスケアなど、CADや映像などのグラフィックスを多用する業務、AIやCAEなどのコンピューティング業務ではリモートワークがそもそも困難と言われています。
仮想化されたデスクトップ環境でもGPUが必要であるという点はあまり認識されておらず、現在でもGPUなしで仮想化されたデスクトップ環境を構築しているケースが非常に多いというのが現状です。
まとめると、リモート/ハイブリッドワークの時代では以下の4つの特徴を備えた「セキュアバーチャルワークスペース」が求められていると考えます。
- 場所・業務に関係なく高いパフォーマンスが得られる作業環境
- 利用デバイスのスペックに依存しない作業環境
- サーバーリソースとデータを安全に効率的に活用できる作業環境
- 組織変更、PCの入れ替えなどに柔軟に対応できる環境
GPUも仮想化を――vGPUで性能、体験、セキュリティを改善
――リモートワークの課題に対し、NVIDIAが提供するソリューションはどのようなものでしょうか?
後藤:NVIDIAが現在、提唱しているのが「DX推進 仮想基盤」です。どのようなものかご説明します。
まずサーバー仮想化の技術があります。物理サーバーにハイパーバイザーをインストールすることで、サーバーリソースを仮想化することができます。1台の物理サーバー上で複数台の仮想マシンを利用することが可能になる”マンション型”にできます。このサーバー仮想化の仕組みにNVIDIAのGPUを仮想化した「vGPU」を追加します。
具体的には、物理サーバーにNVIDIAのGPUを組み込み、ハイパーバイザー側にこれを管理する「NVIDIA vGPUマネージャー」をインストールすることで、小さいGPU、vGPUとして仮想的に分割することが可能になります。GPUのメモリを当分割し、GPUコアを最大値シェアしながら使うことができるので、複数台の仮想マシンで高い性能を効率よく使うことができます。
オフィスであれば、64GBグラフィックスメモリを分割設定できる「A16」を利用したり、CAD設計者が使うような環境であれば、48GBグラフィックスメモリを分割設定できる「A40」を使って、2GBの通常パターン、12GBの高性能パターンと仮想マシンの性能パターンを分けて用意することもできます。
仮想化されたデスクトップ環境を利用するとすべてデータセンター側でデータ処理、作業がおこなわれて、ユーザーのPCには、紙芝居のように操作した画面のイメージのみが転送されるだけでデータはPCに残りません。つまりセキュリティ対策にもなります。また1台のPCからリモートにある仮想化された複数のワークステーションに接続して、並行して利用することもできるようになります。マルチモニターや4K8Kなどの高解像度画面にも対応します。
このような環境が得られることで、物理PCやワークステーションなどを全てDX推進仮想基盤に引っ越しができます。ユーザーは仮想化されたデスクトップ環境にアクセスすれば、業務や作業に必要な性能を得られるので、「時間や場所、さらに手元で使う利用デバイスのスペックにとらわれずに作業をする」という新しい働き方が可能になります。
さまざまな業務のリモートワーク、デザインレンダリング、シミュレーション解析、AIや深層学習、データアナリティクスや機械学習など様々な用途で快適に使えるようになります。まだまだ利用は少ないものの、今後はAR/VR、メタバースやデジタルツインなど、高い処理能力を要するアプリケーションの利用が増加すると見込まれており、これにも対応できる仮想環境を構築できます。
ビジネスユーザーであれば、オフィスソフト、ブラウザ、Web会議など、日常の業務で使うアプリケーションを快適に利用できます。GPUがある場合、GPUなしと比較して、CPU負荷を約10~60%削減できます。Windows 10上でのメール検索、PowerPoint編集、動画や地図情報などのユーザー操作感は平均すると34%向上します。
ユーザーの画面に送られるフレームレートであるFPS(Frames Per Second、1秒間の動画が何枚の画像で構成されているかを示す単位)は、Web会議で5~20フレーム増え、動画再生では20フレーム増えるなどの改善が観測されています。このようにリモートワークの「パフォーマンスを改善」、「今まで出来なかった作業を可能にする」こうした環境が整うことで、「生産性が向上して、さらなる戦略的な取り組みに広げられる」、戦略的なDXを推進できる、というのが我々の考えです。
vGPUで不可能を可能に
――vGPUとVDIで実現するリモートワークはどのような分野で導入されているのでしょうか?
後藤:リモートワークといえばオフィス業務がほとんどでしたが、vGPUを組み合わせることで、性能、セキュリティの問題が解決されるため、製造業、自動車、建設、エネルギーメディア・エンターテインメントなどから教育、ヘルスケア、金融と実に幅広い用途に拡大できます。それも、テスト環境ではなく本番環境としてユーザーが作業できる環境を提供できるようになり、これまで不可能と思われていた分野でリモートワークが可能になります。
企業だけでなく、自治体での利用も増えています。現時点では企業におけるビジネスユーザーと同じオフィス業務での利用が中心ですが、今後プロフェッショナルユーザーにも拡大すると見ています。
業界では、自動車と製造業が先行しています。設計開発環境を外に出したくない、拠点間でプロダクトのデータを移動することなく扱いたいというニーズがあり、我々のソリューションが選ばれています。世界的には、ヘルスケアにおける研究で使うケースも増えています。
最近特に増えていると感じるのがメディア・エンターテイメント業界です。映像やゲーム開発などの業務になりますが、制作スピードやセキュアな制作環境が求められています。vGPUとVDIでリモートワークの環境が整うことで、場所にとらわれずに、生産性が高い作業ができます。別のチームとも積極的にコラボレーションしながら高速に作業できる環境として選んでいただいています。
教育分野でも高い関心をいただいています。リモートでも授業が受けられるようにするというところはもちろん、不足しているDX人材やデータサイエンティストを育成するコースを立ち上げるにあたって、vGPUを用いた環境を構築するというところがあります。
リモートワークに付加価値を作る時代へ
――リモートワークからハイブリッドワークへと変化する中で、リモートワークだからこそ生まれる価値があれば教えてください。
後藤:時間や場所に縛られずに、高い性能や大きいサイズのデータを必要とする業務や作業が遠隔から快適にできるようになった企業は、その先の新しい取り組みを考えています。
NVIDIAが提唱する「DX推進 仮想基盤」では、大きく3つの動きが見られます。
1つ目として、業種を問わず、いろんな分野でリモートワークをするという動きです。
2つ目は、リモートワークにプラスしてデジタル設計開発/制作プラットフォームを統合するという動きです。具体的には3Dデジタルコンテンツ制作におけるリアルタイム コラボレーションおよびデジタルツインのシミュレーションのためのプラットフォームである「NVIDIA Omniverse」を使って実現します。
3つ目は、AI実行・開発環境の統合です。NVIDIAのAIツール/フレームワーク「NVIDIA AI Enterprise」を組み合わせ、エッジ、物理ワークステーション、部門サーバー、パブリッククラウドなど分散したAIの取り組みを統合して使っていくというものです。
DX推進 仮想基盤側はファイルサーバー、設計開発関連のサーバー、レンダリングサーバーなどが高速ネットワークでつながっており、これに軽量のノートPCからアクセスします。扱うデータ量が大きくなると、逆にリモートの仮想化されたデスクトップ環境でないとできないという作業が増えてくるでしょう。
ハイブリッドワークでは、管理者がユーザーIDに紐付けて仮想化されたデスクトップ環境を配布するような運用が可能になります。これにより、組織変更、異動や転勤、プロジェクト変更などに柔軟に対応できます。ユーザーはログインし直すことで新しい作業環境が得られるので、これまでのように、新しいAIプロジェクトをやるとなった時に”環境を用意するまで1ヶ月待ってください”といったことがなくなります。
NVIDIAは、リモートワークはハイブリッドワークへと進化し、さらに活用の時代に入ったと考えています。全ての業種、業務で場所にとらわれない環境の整備をしておくことで、単に遠隔から業務ができるだけでなく、生産性が上がる戦略的な環境を持つことができると考えています。
リモートワークは手段に過ぎません。環境を整えることで得られる新しい付加価値を業務に適用して、更なる価値創出につなげることができます。我々としても、ぜひそこをお手伝いしたいと思っています。
【後藤祐一郎(ごとう・ゆういちろう) プロフィール】
エヌビディア合同会社
エンタープライズ事業本部
VGPUビジネス開発マネージャー
ユーザー企業、国内システムインテグレーターで仮想化やVDI、インフラの提案や設計、構築の運用保守、多くの講演活動や講師を経験。お客様の課題や事業展開をお伺いし、業務や運用を見据えた最適なITソリューションの提案を得意とする。
2017年2月、NVIDIAに入社。オフィス/グラフィックス/コンピューティングと不可能を可能にするワークロードを実現する、仮想GPUソリューション(NVIDIA VGPU)を日本市場に広げるビジネス開発に従事。
<参考リンク>