【マウザー・エレクトロニクス】世界の半導体市場で躍進を続ける理由とは?
マウザー・エレクトロニクス グローバルサービス&EMEAおよびAPACビジネス担当
シニア・バイス・プレジデント Mark Burr-Lonnon マーク・バーロノン
マウザー・エレクトロニクス APACマーケティング担当/バイス・プレジデント(副社長)
Daphne Tien ダフネ・ティエン
マウザー・エレクトロニクス 本社副社長・日本総責任者 勝田 治
世界最大級の半導体・電子部品の品揃えを誇るオンライン商社マウザー・エレクトロニクスが、2023年上半期の業績を振り返るメディア向け発表会を開催した。コロナ禍を経て、約3年ぶりに現場での開催となった本会では、本社の役員らも来日しグローバルに展開する同社の躍進ぶりが語られた。
マウザー・エレクトロニクスは、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイが所有するTTIグループの傘下にある、半導体や電子部品のディストリビューター(卸売業)だ。2022年度の実績では、グループ全体で90億ドルの売上高を誇り、そのうちおよそ40億ドルをマウザーの売上が占めている。
現時点で世界28拠点を構えており、2023年内にはリトアニアとオーストラリアに新しい事業所をオープン予定。日本も重要な市場のひとつだという。ターゲットは研究開発/設計エンジニア、メーカー、学生、クリエイターと幅広い。
膨大な在庫管理も最先端の設備で自動化
最初に登壇した、グローバルサービス戦略の指揮を執る上級副社長のマーク・バーロノン氏は、自社の特徴のひとつは「各メーカーの正規代理店として、商品はすべて正規品を取り扱っている点です」と語る。1200もの半導体・電子部品メーカーとフランチャイズ契約を結んでおり、取り扱う製品数も年々増加しているという。
「当社は提供する在庫の品ぞろえや品数に幅を持たせることを重視しており、とくに半導体の品数としては30万点を超え、業界の中でもリーダーシップのあるポジションを獲得している」(マーク・バーロノン氏)
さらに、それらの商品すべての在庫管理や物流管理を、米テキサス州にあるマウザー本社の1拠点で行っているのも特筆すべき点だ。販売電子部品数97億点、ユニーク品番数100万以上(2022年度実績)という膨大な商品の在庫を取り扱うマウザー。1拠点での管理を実現するために、2001年からVLM(垂直リフトモジュール)やロボットなどのオートメーションを駆使した倉庫の拡張を続けており、2024年の春には61.3万平方フィートの広大な新棟も開設予定だ。
販売実績を見ていくと、特に2020年から2022年にかけて、非常に好調であることがうかがえる。2020年時点では2億ドル規模だったが、その後2年間で4億ドルに倍増。アジア、ヨーロッパ、アメリカのすべての地域で売上が1億ドルを超える規模に成長している。
一方、2023年上半期の売上を見ると、グローバル全体で見れば横ばいだが、アジア地域では昨年比マイナス17%と伸び悩んでおり、現在時点では全体で通年3.75億ドル、昨年比マイナス8%ほどに留まる見込みだ。しかし、今後回復する兆しはすでに見えているという。
「売上同様に重視している製品の購入者数の遷移を見ると、アメリカ、ヨーロッパは好調に伸びており、売上としては17%ダウンのアジア地域も、購入者数は2%しか下がっていない。また、個人アカウント数の増加も好調だ。2024年には市場が変わり、数字が戻ってくることを期待している」(マーク・バーロノン氏)
若い技術者の成長もサポート
続いて登壇したのは、マウザー・エレクトロニクス副社長でありマーケティングを統括するダフネ・ティエン氏。商品を顧客が理解し、活用し、継続利用してもらうために、さまざまなマーケティング施策を行っているという。
マウザーの公式サイトに掲載されている1300万以上の膨大な製品の中から、エンジニアが設計に合ったものを素早く正確に探せるよう、無料のBOMツール(部品表)を提供。また公式サイトは34の言語に対応し、27の通貨で支払いが可能になっている。「もちろん、日本語で検索し、日本語によるテクニカルサポートを受けることもできる」(ダフネ・ティエン氏)
他社と差別化して新規顧客を引き込むためには、最新情報をスピーディーに提供することが重要と考え、各メーカーの新製品発表から1週間程度で公式サイトに製品詳細ページを公開。2022年度は約3200製品のページを作成し、1600万以上のPVを獲得したという。
その他、業界最先端の情報をシェアするテクニカルコンテンツの配信や、日本では全国からオリジナルの電子工作作品を募る開発コンテスト「Mouser Make Awards 2023」を開催するなど、若い世代のエンジニアやクリエイターの技術向上・発展にも寄与したいと考えているそうだ。
コロナ禍がもたらした意外な好機
最後は、マウザーの日本ビジネスの現況について、マウザー・エレクトロニクス本社副社長兼日本総責任者の勝田治氏による解説が行われた。2015年に日本にオフィスを構えて以来、順調に売上と顧客数を伸ばしており、2022年までの実績としては設立当初から販売金額は約8倍、顧客数は約6倍に成長している。とくに2021年から2022年にかけて大きく数字が伸びており、これは新型コロナウイルスによる世界的なバンデミックの影響が大きかったという。
「この時期はあらゆる業界で物不足が起こり、とくに半導体を中心とした電子部品の不足は深刻。そんな中、我々のようなオンライン商社のニーズが高まり、『マウザーなら商品が買える』ということが、徐々にお客様に浸透していった」(勝田治氏)
当時、日本市場においてマウザーは後発で、ブランド力も高いとはいえない状態。コロナ禍をきっかけに新規顧客が増え、「取引用の口座がなくても、代金さえ払えば製品が購入できる」「大量購入が必須ではなく、製品を1点から購入できる」といった他社と差別化できるメリットも知られるようになり、継続購入につながっていると勝田氏は分析している。
日本での売り上げは半導体が6割を占めており、汎用部品、コネクター、メーカー部品と続く。同社調べによれば、競合他社の日本向け市場の中で、2022年に初めて売上トップに立ったという。
「会社設立8年目にして、ようやく他社と同等に戦えるようになった。2023年度はまだわからないが、上半期の時点では売上トップの位置をキープしている。年末、どんな結果になっているか楽しみにしていただきたい」と、勝田氏は自信をのぞかせた。
コロナ明けで物価や市場にも変化が起きている中、マウザーの今後の成長に注目したい。
【Mark Burr-Lonnon(マーク・バーロノン)のプロフィール】
マウザー・エレクトロニクス シニア・バイス・プレジデント(上級副社長)
グローバルサービス戦略、およびヨーロッパとアジア太平洋(APAC)地域における日々の国際的な取り組みを指揮。米国の小さな電子機器販売会社からスタートし、今では年間売上高40億ドル以上を誇る世界トップ10のディストリビューターに急成長したマウザーの多文化なグローバル経営陣の指導的役割を担い、世界中の設計エンジニアやバイヤーの多種多様なニーズに応えることに注力している。
電子部品流通、部品製造、EMSの分野で業界をリードする企業でのキャリアを通じ、38年以上にわたるグローバル・エレクトロニクス流通の豊富な経験を有する。キャリアの初期はイギリスとヨーロッパを拠点に、直近の過去20年間はアメリカを拠点として、複雑な国際ビジネスのマネージメント、業界と強い関係を築くことに精通。
【Daphne Tien(ダフネ・ティエン)のプロフィール】
マウザー・エレクトロニクス APACマーケティング担当/バイス・プレジデント(副社長)
マウザーのAPACマーケティング担当バイス・プレジデントとして、担当部門を統括しアジア太平洋地域におけるマーケティングおよびビジネス開発の指揮を担当。
2011年にマウザーに入社し、APACマーケティング部門を立ち上げました。以来、APACにおけるスポークスパーソンとして中国、日本、韓国、インド、オーストラリア等のアジア太平洋各国における、マウザーのブランド価値と差別化の創出に取り組んでいる。
現在もAPACにおけるブランド認知力の向上に努めると共に、経営陣との緊密な連携のもと、APACにおけるマウザーの事業目標および戦略的マーケティング目標の達成に従事している。
【勝田治のプロフィール】
マウザー・エレクトロニクス 本社副社長・日本総責任者
慶応大学経済学部卒業後、三菱化成工業を経てTDK株式会社に入社。主に海外事業に携わり、米国駐在時代にIBM、Intel、Apple、Lucent、Motorola などの米国大手情報・通信関連企業を担当、東海岸地区の営業責任者を務めた後、TDKシンガポールに駐在し、ASEAN地区の営業総責任者として、インド・ベトナムに新拠点を設立したほか、同地区の売上げ新記録を達成。
2016年にマウザーに参画し、副社長兼日本総責任者として、カスタマー・サービスをはじめマーケティング、財務を含む、日本のオペレーションを統括。国内大手半導体商社マクニカとの共同運営サイト「マクニカ・マウザー」実現を手掛け、各展示会への共同出展など同社とのコラボレーションや各種マーケティング活動にリーダーシップを発揮している。