2022.9.26

【日本ワーケーション協会 入江真太郎】「場所を変えて豊かな働き方」を実現する方法とは

StoryNews編集部

一般社団法人日本ワ―ケーション協会 代表理事 入江真太郎

一般社団法人日本ワ―ケーション協会 代表理事 入江真太郎

場所を変えて豊かな働き方、自分らしい働き方・暮らし方を実現したい──コロナ禍をきっかけに、そのような価値観を持つ人が増えています。NTTデータ経営研究所が実施した「地方移住とワーケーションに関する意識調調査」によれば、都市圏居住者の3割弱が地方移住に関心があり、そのうち半数程度は移住に向けて検討・準備を行っているとのこと。

また、地方移住に関心がある層のうち、4割超が移住後もテレワークを活用し、現在の勤務先で働き続けたいと思っているとの結果が出ています。

そんな社会の変化に合わせ、場所を変えて豊かな働き方・暮らし方の普及に取り組んでいるのが、一般社団法人日本ワーケーション協会です。場所を変えて豊かな働き方・暮らし方に取り組むことによる効果、そして企業や個人から見た意義とは何か。今回、ワーケーション協会代表理事の入江真太郎氏に話を聞きました。

コロナ禍で加速した「場所を変えて豊かな働き方」

写真提供:入江氏(新潟県・妙高高原にて)

日本ワーケーション協会設立のきっかけを教えてください。

入江:もともと、自分はインバウンド(訪日外国人旅行)など観光業界に携わっていたこともあり、2015年ごろから場所を変えて豊かな働き方をしていました。そうした中、2018年ごろからインバウンド需要が盛り上がりを見せ、自分が使っているコワーキングスペースに訪日外国人がたくさん来るようになってきました。彼らと話をしていると、日本にはノマドワークに関する情報が少ないと気づき、当時から何かできないかと考えていました。

そこから数年が経ち、2020年の年明けくらいに日本でも新型コロナの感染者が増え始めたタイミングで、場所を変えて豊かな働き方・暮らし方を底上げできるような取り組みを本格的に始めようと思い、日本ワーケーション協会を設立することにしました。

また、自分は昔から過度な東京一極集中の状態を懐疑的に見ていました。例えば、台風が来ているにもかかわらず、駅で行列をつくりながら電車を待つ通勤ラッシュを見ていて「一体、何やっているんだろう。それならテレワークしたらいいじゃん」と思っていたほどです。

日本はいろんなモノが東京に集中してしまっている状態で、関西で暮らしている身からするとすごく違和感がありました。そうしたこともきっかけで、場所を変えて豊かな働き方・暮らし方を当たり前のものにできるような取り組みをしたいと思っていました。

「ワーケーション」の考え方を広げるために

写真提供:入江氏(石川県・金沢LINNAS Kanazawaにて)

日本ワーケーション協会の具体的な活動はどういったものでしょうか?

入江:「ワーケーション」という言葉や考え方が広がっていけばいいなという思いはありますが、自分はそれ以上に場所を変えて豊かな働き方・暮らし方、そうしたライフスタイルを広げていきたいという思いの方が強いです。価値観が多様化している時代の中で、場所を変えて豊かな働き方・暮らし方をしたいと思っているものの、さまざまな理由で出来ない人もたくさんいると思います。そうした状況を少しでも変えていき、場所を変えて豊かな働き方・暮らし方を選択できる人をひとりでも増やしていきたい。「やりたくても出来ない」から「やりたいときにやれる」という世の中にしていきたいと思っています。

そのために、日本ワーケーション協会ではイベントや講演会を開催したり、自治体のサポート事業を手掛けたりしています。

─コロナ禍をきっかけに「場所を変えて豊かな働き方」が加速した。

入江:そうですね。コロナ禍をきっかけに、場所を変えて豊かな働き方を認める会社が増えたと感じます。例えば、ある会社ではコロナ前まではバックオフィス系の業務はオフィスに来なければ出来ないものという先入観があったそうですが、コロナ禍をきっかけにオフィスに来なくても作業できることが多いと分かったそうです。

ミレニアル世代やZ世代と言われる世代の人たちは、場所を変えて豊かな働き方・暮らし方が実現できる企業で働きたい傾向が強くなっています。だからこそ、企業は多様な働き方・暮らし方を認めることで優秀な人材も確保できるようになりますし、社員のウェルビーイング(肉体的・精神的・社会的に満たされた状態)向上にもつながります。それを実現している企業は、今の時代に求められている社会変化に対応していると思います。

一方、働き方を「オフィスへの出社」に戻している企業は、テレワークはあくまで新型コロナの感染対策という捉え方だったのかなと思います。もちろん、働き方を出社に戻していく流れは一定数あってもいいですが、こうした取り組みを通じて会社の考え方も見えてきます。

「ワーケーション」はライフスタイルのひとつ

写真提供:入江氏(長野県・富士見森のオフィスにて)

─入江さんは「ワーケーションはライフスタイル、ワークスタイルのひとつ」と仰っていますこの意味について詳しく教えてください。

入江:日本では「ワーケーション」に対して、誤解されている部分があると思います。例えばワーケーションを強制的にやらせようとするのは絶対に間違いです。働き方に関しては多様な価値観がある。オフィスに出社したいと思っているにもかかわらず、強制的に在宅勤務をさせるのは間違っていると思います。多様な価値観がある中で、自分らしい暮らし方・働き方を実現する手段のひとつとして、ワーケーションがあるというイメージです。

ワーケーションは「Work(働く)と「Vacation(休暇)」を掛け合わせた造語で、2000年ごろからアメリカで生まれたひとつの考え方です。ただ、日本にはそもそもバケーションという文化がありません。それにもかかわらず、ワーケーションという言葉だけが一人歩きした結果、仕事と観光を無理やり結びつけるような取り組みが生まれていき、「ワーケーションって遊んでいるだけでは?」というような誤解が生まれ、その誤解が世の中に広まってしまっているのかと思います。

ですから、自分たちは「ワーク+バケーション」という文脈でワーケーションについて話をしません。その話し方を日本ですると誤解しか生まれないからです。考え方が多様化する中で、働き方・暮らし方の選択肢が増えていくといい。そういう意味で、自分は「ワーケーションはライフスタイル、ワークスタイルのひとつ」と思っています。

─働き方が固定化されるのではなく、自分で取捨選択し、より良い働き方・暮らし方を実現していく時代になってきているということでしょうか?

入江:そういう時代になっています。例えば、先日NTTが基本的な勤務場所は自宅とし、出社する場合は「出張扱い」にするという働き方の新しいルールを導入したことを発表しました。そのニュースに対して意外とポジティブな反応が多かったと感じています。「自分で働き方を選べるのがいい」や「自分が意思を持って仕事をしていかないといけない時代になった」といったコメントをたくさん目にしました。

2025年には全労働人口の過半数をデジタルネイティブ世代(ミレニアル世代やZ世代)が占めるとも言われています。そうした変化に合わせるように、働き方が昭和型から令和型に変革しているのではないでしょうか。

「場所を変えて豊かな働き方」を企業が導入するポイント

──企業、個人、地域の3者から見た場所を変えて豊かな働き方に取り組む意義について教えてください。

入江:企業がライフスタイルの多様化を認めていくことは、結果的に「この会社だから実現できる」というイメージの醸成につながります。例えば、とある都内の会社に週1回オフィスへ出社することになったけど、新入社員には都内のマンションの家賃は高く、都内では生きたい暮らし方はできない。しかし、週1出社であれば、例えば東京に比べて家賃の安い伊豆等に住んで、自然を満喫しながら生活ができるようになる。そういう価値感の変化を見ていくと、「この会社だからできるライフスタイル」を企業が認めていくことは結果的に、企業にとって大きなプラスになるのではないかと思います。

また、個人にとっては人それぞれ実現したいこと、生きたい暮らし方がある中で、ワーケーションをすることで労働時間や会社に縛られず、自分の目指す生き方が実現できる。その分、自分で意思を持って仕事をしないといけない側面はありますが、それでも仕事の幅は広がりますし、人脈も広がる。また訪れた先でワーケーションしている人たち同士で仲良くなり、そこから新しい仕事が生まれるといったこともあると思います。

地域にとっての意義ですが、まずは地域内の暮らし方、働き方の多様化を考えないといけないと思います。多様化を進めていくことで、地域にできたコワーキングスペースに地域の人が集まり、違う地域の人がやってきて、新しい交流が生まれるようになる。そこが地域にとってのコミュニティとなる可能性があるわけです。その結果、地域経済に新しい循環が生まれると思うので、地域にとって多様化を進める上で意義があることだと思います。

──最後に企業が場所を変えて豊かな働き方を導入するためのヒント、ポイントを教えてください。

入江:まずは「制度の導入」という考え方から一度離れて、今の制度内で出来ることから考えることがポイントです。自分の会社を知り、可能な範囲で出来ることを考える。例えば、ワーケーションは遠くの場所に行くイメージがあると思うのですが、全然そんなことはなく、初めての人はほとんど今住んでいる地域から近い場所を選んでいます。

例えば、東京在住の人であれば近隣の横浜や鎌倉くらいの距離感の場所でいいでしょう。まずは可能な範囲から始めてみる、ということが一番大事なことだと思います。

また、オフサイトミーティングという形で普段の会議室でやっているミーティングを別の環境でやってみる、というのもひとつの方法です。基本的に今の制度内でやれる可能性が高いものをまずはやってみる。実行する際は決裁権がある人が動くのが好ましいですが、難しい場合は動こうとしている人を中心にチャレンジしてみるのがいいでしょう。

会社はビジネス的なメリットをきちんと提示すれば、対応しやすく動きやすい。まずは小さい形でもいいので、やってみてビジネス的なメリットがあることを証明するのがいいでしょう。

【入江真太郎のプロフィール】

一般社団法人日本ワ―ケーション協会 代表理事

長崎生まれ、育ちは福島、秋田、茨城、徳島、兵庫と各地を転々、京都・同志社大学社会学部卒業。大阪府在住。(株)阪急交通社等で旅行業他様々な業種を経験する。その後、観光事業やその他海外進出支援事業等を展開。北海道から沖縄まで、各地と関わりを深めていく。その中で仕事スタイルとしてリモートワーク・ワーケーションを常にしており、地域振興、豊かなライフスタイルの実現が可能なワーケーションを事業として高い関心を持ち、協会設立に至る。新潟、長崎、山口、大阪、鳥取などで自治体事業や関連団体、一般企業のアドバイザーも務めている。 

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